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カテゴリ:印刷作品アーカイブ

アーティストたかくらかずきと弊社プリンティングディレクターの制作対談

2023.12.5  お知らせ, 印刷作品アーカイブ, 業務実績, 作品制作 

サンエムカラーでは、美術館やギャラリーでの展示作品も印刷しています。アーティストと制作過程でコミュニケーションをして完成していくことも多々。

これまでに、クリエイティブコーダー・高尾俊介さん写真家・横山隆平さん、彫刻家・長谷川寛示さんとの制作風景を紹介しました。

今回の記事は、アーティストのたかくらかずきさんとの制作を紹介します。たかくらさんと一緒に数多くの制作を行った、弊社プリンティングディレクター大畑との対談になります。

たかくらさんは、デジタルデータと仏教とキャラクターをテーマにドット絵、3D、ゲーム、印刷、NFT、AIなどを使った現代美術作品を制作。東洋思想による現代美術のルール書き換えとデジタルデータの新たな価値追求をテーマにしています。

サンエムカラーは、たかくらさんとの作品制作で、UVプリンタでの凹凸印刷やレンチキュラー印刷などをキャンバスやモニターなどメディアを問わずに印刷を行い、作家の表現の可能性を広げています。

 

サンエムカラーとの出会いと制作




展示「アプデ輪廻 / APUDE RINNE ver3.0 -三途の川渡り」@KYOTO HAUS(2021年)作品「釈迦三尊図」レンチキュラー印刷/アクリルマウント

——たかくらさんとサンエムカラーの制作を紹介できればと思います。まずはサンエムカラーとの出会いを教えていただけますか。

たかくら 2021年夏に行った個展「アプデ輪廻 / APUDE RINNE ver3.0 -三途の川渡り」に、木村浩さん(サンエムカラーのクリエイティブディレクター・営業)が来てくださったことからサンエムカラーと繋がって、それから一緒に制作を始めました。大畑さんと会ったのは、最初に会社見学をした時で、レンチキュラーの印刷ができることを押していて、UVインクでレンチキュラーが作れることを知りました。

大畑 僕はたかくらさんの作風がデジタルアートやピクセルアートという認識でした。その時はちょうど社内でレンチキュラー技術が実用化した時期で、凹凸印刷よりも熱が入っていて。サンエムカラーでレンチキュラーが最初にできたのは4年前(2019年)で、性能があまり良くなかった。金氏徹平さん(現代美術家)の作品を何回か作っているうちに精度が上がってきて。

たかくら 金氏さんからレンチキュラーの印刷ができないですかと聞かれたんですか?

大畑 金氏さんに「こういうことができるんですよ」と言ったら「じゃあやろうかな」という流れになりました。サンエムカラーがUVインクでレンチキュラーが作れるなんて外部からわからないので、技術ができた時にちょっと伝えていて。

——UVプリントのレンチキュラーではない、基本的なレンチキュラーの印刷はどういった方法になりますか?

大畑 2通りの作り方があり、かまぼこ状のレンズシートに直接インクジェットなどでプリントするか、印刷物をレンズシートに貼るという方法です。なので、レンズごとプリントするような、うちの作り方は特殊ですね。縦と横のレンチキュラーが混在したり、1か所にだけレンチキュラーを入れることができるのは、サンエムカラー独自の技術で他であまり見たことないです。先日、UVプリンタの会社SwissQ主催のコンテストの出展作品を見ると、海外では何社かレンチキュラーを作っていたので頑張ればできることなのかなと思います。

たかくら なるほど。気になっていることを聞いてもいいですか。UVインクでレンチキュラーをプリントする技術はどうやってできたんですか。

大畑 凹凸や透明をプリントできるSwissQのプリンターを社内に導入した時、その中にレンチキュラーのようなプリントをできるドロップティクスという機能が付いていました。しょうもない話ですが、それは年間ライセンス料を払うと使える機能で結構高い。そんな時に社員の村田が「自分たちでレンチキュラーを作れるんじゃない?」と言い出して、社員の惣引がレンチキュラーのことを0から勉強して、透明インクでレンズをプリントする方法を編み出したという経緯があります。

サンエムカラーの場合、レンチキュラーの歴史があるわけではなく、10年以上前に社内でレンチキュラーの結構高いアプリを導入して試していました。その経験があったので、UVインクでレンチキュラーを作れました。ただ、現在UVインクでレンチキュラーを作っていますが、普通のレンチキュラーを製作する経験はあまりないです。レンチキュラー専業の会社とは全然違う流れを辿っていて、UVプリンタでアートピースを作るというコンセプトから派生してレンチキュラーができたので、レンチキュラーありきではないという独特なポジションとなっています。

たかくら レンチキュラーは、僕も考えた結果にたどり着いた制作方法でした。「デジタルの作品をただ印刷しただけではアートピースにならない」と言われていた時代から僕はデジタル作品や印刷作品を作っていました。そこで、2次元である平面作品に時間や立体感など、プラス一次元の要素を入れ込む技術のひとつとして、レンチキュラーが適しているのではないかと考えました。レンチキュラーであれば、デジタル印刷作品である意味を十分に生かしたままアートピースとして成立させられる、と思ったのです。2016年に梅沢和木(梅ラボ)くんとの2人展「卍エターナル・ポータル卍 輪廻MIX」が初めてで、その時はレンズだけ買って自分で貼り合わせてみたんですけど難しくて、まっすぐ貼れずにモアレが出たんですよ。

大畑 正確に貼ることは大変なのと、レンズピッチにしっかり合わせて印刷するのが難しいので。

たかくら そうなんですよね。ピクセル換算してインクジェットでプリントしたものを貼る方法でした。もちろん動くといえば動くし、モアレの部分が逆に面白かった。このスキルを極めていったら、僕はデジタルアーティストというよりはレンチキュラーアーティストになっちゃうなと思って、それから外注しだしました。2017年にリクルートでの展示「有無ヴェルト」では、1m×1mぐらいのレンチキュラーの作品を作りました。レンチキュラー作品、なかなかいいぞと思っている時期に、サンエムカラーでレンチキュラーを印刷できる、という話を聞きました。レンズを印刷するってどういうこと!?とかなりびっくりしました。

キャンバスに凹凸印刷




作品「EMOJI KAIDO 53 NIHONBASHI」(2021年)

——それから初めて一緒に作った作品はなんですか?

たかくら 初めて一緒に作った作品は2022年のART FAIR TOKYOに出展した、絵文字で東海道五十三次をモチーフにしたシリーズだったような……。その頃、僕はキャンバスを作っていませんでしたが、YODギャラリーさんからキャンバスの作品を売りたいという話をいただいたことがきっかけです。

データで作ったものをプロジェクションしてわざわざキャンバスに肉筆で書いたらアートピースとしてOKだとか、印刷物でも上から絵の具で加筆することでユニークピースとして成立する、というアートワールドのルールに疑問があって、どうしてもその流れには乗りたくなかった。とりあえず絵の具がついてればアートピースとして成立するってのはおかしな話だなと。デジタルで一生懸命に描いていても、デジタルというだけで簡単でお手軽、誰でもできると思われがちなので、そんなことはないぞと。僕はデジタルそのものに価値を持たせたかった。そこでサンエムさんと一緒に凹凸でプリントすれば、キャンバスとしても成立するし、現代のそういったアートピースとデジタルデータをめぐる「決まりごと」にも疑問を投げかけることができるぞ!と思いました。

大畑 凹凸データの作り方はすぐ慣れましたか?

たかくら すぐ慣れました。凹凸データ用のレイヤーが、黒ければ黒いほど盛り上がって、白ければへこむという簡単なルールなので。僕の作品はグラデーションがあるというよりも色がパキッと分かれているので相性が良い。

大畑 うちの部署の社員は日常的に凹凸データを作っているので、データを見て仕上がりが大体わかります。たかくらさんが「ここをこだわっているな」「こういうことしたいんだな」というのがわかるので、データが届いてから社内で盛り上がることがあります。うちで普段アートピースを作る作家さんは、凹凸のデータはほぼお任せなんです。たかくらさんのように作家さんで狙いを考えてデータまで作る作家さんは少ない。

たかくら デジタル上で想像したものが想像通りに刷り上がってくるかが印刷の楽しみな工程です。焼き物が窯から出てきた瞬間に似ています。

僕はサンエムで作る作品を「絵画のプラモ」と呼んでいます。先に全部立体を造形してから、最後に一気に塗装する工程がプラモデルに近いと思っていて。だから、絵画のフォーマットをコピーしたジオラマのような雰囲気の作品になります。

 

モニターの上に印刷


展示『アプデ輪廻 ver4.0 天国・地獄・大地獄』@TOH (代々木) 作品「天国・地獄・大地獄」モニターにUV印刷/NFT付き映像作品



作品「MIROKU PAD」(2022年)

大畑 その前に2021年の冬の個展で、PCモニターとKindleに印刷しましたよね。モニターを破壊しなきゃいけないし、ヤスリをかけなきゃいけないし。楽しかったです。

たかくら そういえばそうですね。「モニターに刷れるじゃん」と思い付いて、最初Kindleにプリントしようとしたら、タッチセンサーのためにシリコンで保護されていて。シリコンにはプリントが乗らないから、一生懸命シリコンを剥がしてみたり。木村さんと電気屋まで行ってフィルムを買いに行ったり。

大畑 それから最終的にフィルムにプリントして貼ってましたね。その時、たかくらさんがモニターの上に絵の具を書く行為をすごくディスっていた。

たかくら ディスというわけじゃないですけど、とりあえず絵の具を付けたらアートになるという美術業界の制度自体を批判しています。要は、絵の具を付けたら価値が付くということは、デジタルに価値がないと言っているのと一緒。デジタルで作ったものが価値として成立するようにしたいので、モニターに刷りたくなったんだと思います。

また、印刷自体も紙にしか刷れなかった時代の感覚のまま、アートピースより劣っているとか量産のためのものだと認知されていて、それがアップデートされてない場合が多い。昔と比べて今の印刷は絵の具より耐久性があったり発色が良いので、そういった感覚を作品で変えることができたらいいなと僕は思っています。なので、基本的には作品のディスではなく制度批判をしています。

 

凹凸データにAIを導入




作品「不動明王VS酒呑童子【大阪】」

たかくら 2022年夏の個展のシリーズです。 この時からAIの生成ツールを素材として使い始めました。背景はAI生成したものを複数コラージュし、その上に自分で加筆して、このシリーズで初めてめっちゃでかい100号の大きさを印刷したんです。

大畑 この頃からAIの筆致が入ったので、凹凸データがまた複雑になった。 

たかくら この時にQRコードも凹凸で印刷していますが、凸凹では読みこめない(笑)。あとからそれに気づいて、最近は平らにしています。僕の作品はNFTとセットになっていていて、それとリンクしたQRコードです。デジタル印刷した作品は原理的には量産可能ですが、NFTによって唯一性を付与しています。

——3Dプリンターとは違った凹凸印刷ならではの利点はありますか?

たかくら それは絵画との接続がしやすいところです。絵画的な筆致やストロークを作れて、解像度を調整できることは僕にとってはありがたい。昔ドット絵の界隈では「他の解像度を混ぜるな」という話がありましたが、僕はあくまで美術の文脈に乗せたい。ドット絵でありながら美術の文脈に乗せるにはやはり絵画的な仕上がりになった方が良い。

大畑 3Dプリンターの事業も行いたいですが、3Dデータは印刷とは別ジャンルなんですよね。3Dプリンターは色再現や解像感がまだ物足りない。それももうすぐ時間の問題で、高性能の3Dプリンターが出てきています。

 

動画が動いているモニターにレンチキュラーを印刷

企画展『アートは魔術/土色豚選抜展その2』(2023年)『HYPER神MIRROR』はそれぞれのモニターにUV立体印刷とレンチキュラー印刷を施し、中の映像作品とセットになった3つの作品である。それぞれが『ハイパー神社』と共通する『jpg』『png』『gif』の3つの拡張子をモチーフとした神が祀られている。それぞれのモニターはデジタルデータを祀る神殿として機能する。

大畑 これは3種の神器の鏡みたいな作品でしたね。

たかくら そうですね。神社がテーマにある編集者の後藤繁雄さんと株式会社ゆめみと共同開発したシリーズ「ハイパー神社」です。jpegやPNGなどの拡張子をキャラクター化してモニターを拝殿に見立てました。

モニターに表示されるピクセルをそれぞれアニメーションさせることで、鑑賞者が左右に動くことなくアニメーションをしていて、鑑賞者が左右に動くとレンチキュラーによりキャラクターが変化していくという作品をつくりました。

これはレンチキュラーをモニターのピッチにピッタリ合わせて作らなければいけない、いわゆる「特注サイズのレンチキュラーレンズ」が必要なので、レンチキュラーレンズを印刷するというサンエムさんのテクニックがあってこそのものだと思います。

大畑さんとお話ししているときに、「レンチキュラーをモニターにやったらどうなっちゃうんだろう!?」って盛り上がったことがあって、それを満を辞して実際にやってみたのがこの作品です。

最初に何度かテストを繰り返していて、僕個人としてはnintendo 3DSの裸眼立体視モニターをイメージしていたので、仕組みとしては多分できるな、と思っていたのですが、実際に印刷してみるとレンチキュラーをモニターのピッチにピッタリ合わせる必要があるので、レンチキュラーを印刷したアクリル板をモニターにずれないように止める方法や、データ作成も動画データ×レンチキュラーのレイヤー数だけ作るので結構複雑だったりしました。

サンエムさん、そしてアクリルをモニターに貼る作業をしてくれたガミテックさんのご協力があってなんとか完成した、という感じです。

そんな感じでハード面はなんとかうまくいったのですが、ソフト面の問題も発生したりして。今まで動画作品に使っていたmp4プレイヤーだと圧縮率が高すぎて、ピクセルがボケてしまうからレンチキュラーがうまく動かなかった。だから、無圧縮のボケないデータを使わないとレンチキュラーが綺麗に動かない。

大畑 圧縮でドットバイドットになってないのかな。

たかくら 無圧縮になると何ギガとか大きなデータを動かすので、今まで使っていたプレイヤーでは動かなかった。展示前日に僕はchromebookを買いに走るというミッションが発生したり。いろいろと大変ではありましたが、この技術はかなり面白いと思っていて、個人的にはとても気に入っています。サンエムさんと一緒に共同で開発した感じもすごく嬉しかった。

映像というのはそもそも縦、横、時間の三次元のメディアなんですが、それにレンチキュラーを足すことで四次元が表現できる。しかもその四次元目というのが3DSみたいなものだったら「奥行き」になるんですが、この作品の場合「レイヤー」なんですよ。同じ位置にレンチキュラーによって別々のものを配置できる。まさにマルチバース的だなと思っています。この技法の作品はまた「満を辞して」再チャレンジしたいなと思っています。

  

https://www.youtube.com/shorts/mHx6tlraPYU

作品「ハイパー神社」(2023年)

UVプリントに箔を貼る

  


個展『メカリアル/MECHAREAL』@山梨県立美術館(美術館内/庭園/メタバース)(2023年)

たかくら この作品は山梨県立美術館での作品です。印刷と箔の組み合わせの作品を作りました。サンエムさんにUVプリントしてもらった後に、サンエムさんの社員さんの修復士に箔を貼る作業もしてもらって。彼の話によると、膠(ニカワ)はUVとの相性が悪くて剥がれるから、樹脂を使って貼ったそうです。玉虫箔という玉虫色に光る、銅を薬品加工した箔です。僕は大学院で日本画を専攻していたので、箔の扱いや種類をある程度知っています。ぴっちり印刷されたドット絵の凹凸と箔のメタリックな感じの相性がすごく気に入っています。

大畑 写真は、箔を張るための作業です。こういう状態で箔を貼ります。箔はノリが乗ってないところを拭けば、ノリの乗ったところだけに箔が付きます。ただUVインキ特有のちょっとした粘度によって、ノリを塗ったところも塗ってないところも、全部箔がついてしまう問題もありました。

——たかくらさんは絵画的な手法を積極的に取り入れていますね。

たかくら そうですね。この作品は、山梨県のシュルレアリストの米倉壽仁さんの詩の内容をAIに入れて出てきた絵をコラージュしました。山梨には道祖神が多いので、道祖神がモチーフになっています。この頃になると、サンエムさんの印刷、箔を貼る人、AI、僕のコラージュや直筆とか、何人もの人の手が入っていて、誰が作ったのかがわからないようになっていますね。この時が要素が1番モリモリかもしれないですね。

——地元の県立美術館だから気合を入れてますね。

 

モニターとキャンバスに印刷して組み合わせる

https://www.youtube.com/shorts/xKGfCgNWu24
作品「EMOJI POT」(2023年)

たかくら 美術館での展示自体が初めてだったので。この後、壺のシリーズを作り始めてから、AIが減ってほとんど手書きになりました。2023年はほとんど壺を書いていますが、これは1番大きいモニターの作品です。周りの淵がキャンバスで、真ん中がモニターで、どっちにもUVプリントしてあるという作品です。みんなモニターの作品を欲しがらないけれど、キャンバスの作品は欲しがるので。

大畑 この時にキャンバスの真ん中にモニターをはめ込むのを初めてしましたよね。これは複雑でした。

 

プラスチックのおもちゃに印刷して組み替える

 

 
作品「100万回生きた壺」(2023年)

たかくら 最新の作品は、レゴを板状にして印刷して、それを組み替えて壺を作りました。組み立てるのが大変でしたが、その後にレゴの壺を割りました。

大畑 割って大丈夫だったんですか?

たかくら バッチリですよ。レゴは耐久性が高いですね。ばらける分、個体には傷がついてない。この作品では、デジタルには可逆性があってフィジカルは不可逆だけど、レゴは可逆性があるということがコンセプトです。要は壊しても戻せるのが、すごくデジタル的だなと思っていて。これは10月26日からのYODギャラリーのグループ展に出展します。

——今までで1番気に入ってる作品はありますか?

たかくら 1番気に入ってる作品ですか。モニターに印刷してる作品は全部気に入っていて、モニターに印刷することは続けたいです。それは僕のメインテーマともいえます。モニターから出ることができなかった存在が、モニターの外側に出ていくことを目指していて。モニターに別のものが付いてるのではなく、デジタルの中にあったはずのものが外側に出ているという表現です。モニターの外部と内側が映像で繋がってるのは、境界線を越えるという表現としていいなと思っています。

あとは、キャンバスにはレンチキュラーがプリントできないので、キャンバスとして成立しつつレンチキュラーとしても成立するものをどう作るかを今後チャレンジしたい。そして、モニターレンチキュラーですよね、これはデータを作るのも作業もとにかくヘビーなものですが、やっぱりマスターピースとして作っていゆきたいなと思っています。何にでも次元を追加できるってレンチキュラーのすごいところです。

大畑 たかくらさんにお伝えしてなかったかもしれませんが、社内のレンチキュラーの技術は日に日に向上していて、アクリルでなくてもレンチキュラーがプリントできるようになりました。もしかしたら板張りした平滑な和紙の上だったら、レンチキュラーができるかもしれません。キャンパスは網目があるので、目の細いキャンバスの上ならやってみる価値はあると思います。

たかくら それは楽しみです。あとはアクリル板をキャンバス型に組むなど、いろいろ方法がある気がします。ただ、レンチキュラーのネックは、絵画的な質感と結構かけ離れていることかなと思っています。レンチキュラーは割と映像やデザインの質感に近い。絵画の質感を残しつつ、レンチキュラーの要素が入った作品が作れたらいいなあと思っています。あとは小さいモニターの作品とかもいいですよね。

大畑 モバイルモニターはできそうですもんね。

たかくら それは良さそうですね。それをキャンパスに埋め込むことはできそう。そういうのを楽しみにしています。

 

アトリエ(制作スタジオ)としてのサンエムカラー

——ありがとうございます。そろそろまとめに入ってもよろしいでしょうか。

たかくら そうですね、すごい面白かった。僕を含めたデジタルの作家にとってサンエムさんには個人にできない技術があるので、アンディ・ウォーホルのファクトリー的なアトリエの要素を持っているということは大きなことです。そういう場に参加させてもらえてるのは嬉しい。アンディ・ウォーホルの時代はアーティストがアトリエを持っていましたが、僕はそういうコストを維持するお金も空間もない。作家が家で作ったものを持ち寄りサンエムさんが現実に展開してくれる。これはとても現代的な関係性だと思います。

大畑 UVプリンターでアートピースをプリントする事業を始めた時に、最初は文化財や日本美術の複製を目的に始めました。個人的にハマったなと思った事例はデジタルアートのフィジカル化です。デジタルデータを物体化する面白さは、UVプリンターのマテリアルを選ばないことや物理的に質感を作れることがあります。たかくらさんとの取り組みの中で気づいたことは多いので、いろいろな作家さんと制作したいですね。

それには個人的な思い入れもあり、昔パソコンで音楽を制作していた時に、デジタルで音楽を作ることに対する外部からの批判だったり、自分で勝手に感じてしまう変な劣等感などの抑圧がありました。ただ、デジタルの作品が人の気持ちを動かす表現としては変わらない。デジタルアーティストの作品をフィジカル化することは、そことどこかで繋がっています。あとは単純に面白さを感じています。

たかくら 僕も同じ気持ちです。アート業界では、デジタルということで楽をしてるんじゃないかという空気感がある。そもそもデジタルの時点でかなり手を動かしてるので、 絵の具を使ってないから書くの楽でしょみたいなのは誤解だと思っています。僕とサンエムさんのやってることは、ただの外注というよりもコミュニケーションを取りながら、新しい作品を作っていると僕は思っている。新しい作品やそれに伴う思想を印刷によって一緒に実現化する作業は、すごく楽しいことです。

 

展覧会情報

たかくらかずき個展「可能性の壺」

会期:2023年11月21日(火)~12月6日(水)

時間:11:00~20:00 ※最終日のみ18時閉場

会場:京都 蔦屋書店 6F アートウォール

主催:京都 蔦屋書店

入場:無料

お問い合わせ:075-606-4525(営業時間内)/kyoto.info@ttclifestyle.co.jp

特集ページ:https://store.tsite.jp/kyoto/event/art/36800-1759191025.html

国際的コンテスト「Innovation Print Awards 2023」で最優秀賞をYOSHIROTTEN『SUN BOOK』が受賞

2023.11.14  印刷作品アーカイブ, お知らせ, 受賞関連ニュース!  ,

 

サンエムカラーで印刷をしたアートブックが最優秀賞を受賞

富士フイルムビジネスイノベーションが主催するデジタル印刷に関するコンテストプログラム「イノベーション・プリント・アワード(Innovation Print Awards)」は、2008年からアジア・パシフィック地域で開催しています。

国内外のデジタル印刷作品を評価するコンテスト「Innovation Print Awards 2023」入賞作品が発表されました。日本からは最優秀賞含む計4作品が入賞。

通算で16回目の開催となる本年度は、アジア・パシフィックの11の国と地域から275作品の応募があり、その中から39作品が入賞作品として選出されました。また今年の最優秀賞作品には、トナーとインクジェットというそれぞれ異なる技術を活用した2作品が選出されました。

最優秀賞のインクジェット部門の受賞作が、サンエムカラーで印刷を行なったアートブックYOSHIROTTEN『SUN BOOK』になります。


2023年度イノベーション・プリント・アワード

最優秀賞 Best Innovation Award 2023(インクジェット)

作品名:”SUN BOOK” by YOSHIROTTEN

企業名:株式会社サンエムカラー(京都府京都市)

出力機種:Jet Press 750S

作品説明:デザイナーYOSHIROTTEN氏による、アート作品365点からなる、展示会用アートブック。「高濃度でダイナミックレンジが広く、シャドー側の表情が豊かな印刷」を、デジタル印刷機Jet Press 750Sで実現。表紙は12色のバリエーション、6センチの厚さがある小口部分に箔を施すなど、個性的な外観を持つ。365部限定販売。

https://sunproject.ydst.io/

 

最優秀賞だけでなくダブル受賞

2023年度イノベーション・プリント・アワードでは、「最優秀賞 Best Innovation Award 2023(インクジェット)」だけでなく、日本入賞作品「芸術関連製品」部門 第1位も受賞しています。

下記の公式サイトで、他の受賞作品もお楽しみください。

・「イノベーション・プリント・アワード」(日本語)https://www.fujifilm.com/fb/company/event/innovationprintawards

・「イノベーション・プリント・アワード」(英語)https://www.fujifilm.com/fbglobal/eng/company/news/release/2023/2668

・「イノベーション・プリント・アワード」プレスリリースhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000118297.html

・『PJ web news』「富士フイルムBI、IPA2023で日本から最優秀賞含む4作品が入賞」
http://www.pjl.co.jp/news/global/2023/11/16819.html

・『時事通信』「国内外のデジタル印刷作品を評価するコンテスト「Innovation Print Awards 2023」入賞作品発表」
https://www.jiji.com/jc/article?k=000000021.000118297&g=prt

・『NEWPRINTING』「富士フイルムHD デジタル印刷作品を評価するコンテスト「Innovation Print Awards 2023」でサンエムカラーが最優秀賞」
https://www.newprinet.co.jp/%e5%af%8c%e5%a3%ab%e3%83%95%e3%82%a4%e3%83%ab%e3%83%a0hd%e3%80%80%e3%83%87%e3%82%b8%e3%82%bf%e3%83%ab%e5%8d%b0%e5%88%b7%e4%bd%9c%e5%93%81%e3%82%92%e8%a9%95%e4%be%a1%e3%81%99%e3%82%8b%e3%82%b3%e3%83%b3


本作にご協力いただいた皆様には感謝しております。海外でも認められる印刷ということになりました。今後ともより良い印刷を行なっていければと思いますので、お気軽にご連絡をいただけましたら幸いです。

 

シンガポールでの授賞式の様子

イノベーション・プリント・アワードの授賞式は、シンガポールで開催。アジア圏の各国から受賞者が集ました。サンエムカラーからは、本作の営業の篠澤とプリンティングディレクターの大畑が授賞式に参加しました。会場の様子を少々お届けします。


100年先の人々に京文化を伝えるラグジュアリーマガジン『京都百年書 Issue 01 瓢亭』を印刷

2023.10.19  お知らせ, 印刷作品アーカイブ, 展覧会・イベント情報  ,

紙印刷の価値を極めた100部限定の豪華本

京都初のアートマガジン『京都百年書 Issue 01 瓢亭』が刊行されました。サンエムカラーでは印刷を担当しています。

「本質を守りながら時代に合わせて変わり続け、受け継がれる京文化の〝今〟を記録し、100年先の人々に京文化を伝えること」をコンセプトに創刊。100年先に文化を残していくために、紙に印刷された本によって記憶に残していく試みになります。

第一号は、京都・南禅寺畔で400年近く店を構える老舗料亭「瓢亭」の日常を紹介した一冊です。

本書では「瓢亭」に縁のある事柄を盛り込んでいます。表紙は阿波和紙。京焼が2客付きなど、料理に使われた素材や道具、ゆかりのものを本に貼り込み、視覚だけでなく五感で楽しめる仕掛けがお楽しみいただけます。

「五感」に働きかけ、記憶に残りやすい本


本書は、「 文化を知る。世界を変える。」をスローガンに、京都の文化を世界に発信するウェブメディア< THE KYOTO >と、写真集や美術書に定評のある出版社 赤々舎と青幻舎の創業者が手がける< PURPLE>が、共同で企画、制作。

100年先の人々に京文化を伝えることを目的としています。 空気までも映しだす〈瓢亭〉の懐石料理コース全品の美しい写真とともに、素材や道具、ゆかりのものを丁寧に貼り込んでおり、手ざわり感を大切にした世界限定100冊の極められた一冊となっています。

さらに14代 当主 高橋英一氏が絵付け、作陶は龍谷窯 宮川香雲、監修は15代当主 高橋義弘が行った京焼「京焼刷毛目瓢箪銘々皿」が2客付き。

明治15年に建てられた数寄屋造りの新席でみられる土壁を表現した表紙の阿波和紙は、藁が美しく浮き出た土壁と同素材。西陣で採れる希少な聚楽土と藁を混ぜて漉き込まれており、随所に、京の伝統と技が光っています。

デジタル化の急速な進展に伴い、様々な業界でペーパーレス化が進んでいる。広告や新聞、雑誌など更新される情報はさらに電子化が進み、これからは「紙に印刷する意味」が問われるだろう。特別な存在になろうとしている紙印刷された本は、手触りや香りなど「五感」に働きかけ、記憶に残りやすいという特徴を持つ。保存性の高い紙を使えば、数百年、数千年と保存することもできる。『京都百年書』は、そんな紙印刷の価値を極めた一冊である。遠い未来において、希少価値の高い手法で、人々の記憶に残し、伝承していく。この本が、紙印刷の価値を感じる機会となれば幸いです。

『京都百年書』ウェブサイトより引用
https://pr.kyoto-np.jp/exhibition/kyoto-century/

刊行を記念して『THE KYOTO』でインタビュー記事「瓢亭当主親子が挑む京料理の未来『京都百年書』刊行」が掲載されています。
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/thekyoto/1118268

 

瓢亭当主による京焼が本に付属

瓢亭14代当主の髙橋英一氏が絵付けをし、宮川香雲氏が作陶したオリジナル京焼付き。

京焼・茶の湯道具を3代にわたって手がける龍谷窯 宮川香雲氏が作陶した皿に、瓢亭14代当主の髙橋英一氏が瓢箪の図柄を絵付けした限定品を特別に製作。二人の直筆サインと落款も添えた、『京都百年書』でしか手に入らない銘々皿2客と共にお届けします。

 

新規オープンした「京都 蔦屋書店」でトークイベント開催

2023年10月17日に開業した京都髙島屋S.C.の5・6階に、「京都 蔦屋書店」がオープン。「京都 蔦屋書店」は、『アートと文化の「伝統と最先端」が共振し、その価値を高め合うような場を創る』をコンセプトとして、歴史に裏打ちされた伝統とカッティングエッジなカルチャーを幅広く提案することを目指した書店です。

京都 蔦屋書店で『京都百年書』は展示販売されています。お値段のするアートブックですので、まずはお手に取ってください。

また、トークイベントも開催されますので、歴史ある京都の文化のラグジュアリーな側面を知りたい方は足を運んでいただけましたら。


【イベント】『京都百年書Issue01 瓢亭』発売記念トークイベント

京都 南禅寺畔〈瓢亭〉の懐石料理を、視覚だけでなく五感で楽しむアート本『京都百年書 Issue01 瓢亭』。 この作品集の発刊を記念して、〈瓢亭〉第14代当主 髙橋英一氏、第15代当主 髙橋義弘氏、作品集に付く京焼「京焼刷毛目瓢箪銘々皿」を作陶した宮川香雲氏のトークイベントを開催いたします。貴重なこの機会にぜひご参加くださいませ。

日時:2023年10月26日(木) 11:00~12:00(10:30受付開始)
場所:京都 蔦屋書店 6階シェアラウンジイベントスペース

詳細はこちら
https://store.tsite.jp/kyoto/event/t-site/36346-1131041006.html

書誌情報

『京都百年書 Issue 01 瓢亭』

仕様:450×290mm/A3横変型/52頁/100部限定(エディションナンバー付き)※エディションナンバーはお選びいただけません。/京焼刷毛目瓢箪銘々皿 2客付き(作陶:龍谷窯 宮川香雲、絵付:瓢亭 髙橋英一、監修:瓢亭 髙橋義弘)
価格:165,000円(税込)
発行日:2023年10月17日
企画・制作:合同会社PURPLE(姫野希美)、THE KYOTO(佐藤寛之)
構成・編集:GRAfts・小池友紀
アートディレクション・デザイン:GRAfts
執筆:小池友紀
写真:蛭子真
翻訳:横田典子
英文編集:Kelly Waldron・Derek Wilcox
印刷:株式会社サンエムカラー・&PAPERS(有限会社マルシゲ紙器)
協力:龍谷窯 宮川香雲 
発行人:安田英樹
発行:合同会社PURPLE
〒604-8261 京都府京都市中京区式阿弥町122-1 式阿弥町ビル 3階
Tel. 075-754-8574 Fax. 075-606-4059
http://www.purple-purple.com

雑誌『デザインのひきだし』50号にサンエムカラーの印刷物が掲載

2023.10.13  雑誌に掲載されました, 印刷作品アーカイブ, お知らせ  , ,

各印刷会社から送られてきた印刷物を製本した一冊


デザイン雑誌『デザインのひきだし』の50号の特集は、100社176種類の実物サンプルを収録した、厚さ10cm、重さ約3kgの超特大号!

サンエムカラーも、実物サンプルを2点掲載させていただいています。

今回の『デザインのひきだし』は、各印刷会社の得意とする印刷技法を用いた印刷物を、100社分集めて製本した内容になります。特殊な印刷がまとめて楽しめるという、本づくりの可能性を広げる一冊になっています。そしてビックリするほど分厚い3冊のセットです!

デザインのひきだし50 特集「現代日本の印刷加工大全」

日本全国の印刷加工会社100社の「自社の一番得意な印刷加工」サンプルが全176種類入った、世界中どこを探しても無い印刷加工見本帳の決定版。自分の発想したデザインを、いかに効果的に印刷/加工表現するか。そんなデザイナーに必須な印刷・紙・加工などの技術情報をわかりやすく紹介する『デザインのひきだし』。

50号となる今号の特集は【現代日本の印刷加工大全】。「あなたの会社の一番得意な印刷加工を教えてください!」という問いに応えてくれた、日本全国の印刷加工会社がつくった実物サンプルをすべて収録。活版印刷から箔押し、シール印刷、オフセット特色6色印刷、多色スクリーン印刷、偏光パール印刷、擬似エンボス、銅版印刷、コールドフォイル、リソグラフ、和紙への印刷、レインボーフィルム貼り、合紙、Vカット……などなど、多種多様な印刷加工がすべて見られます!
https://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=52033

展覧会のブックレットとアートブックの印刷を再現して掲載



サンエムカラーは、以前に印刷を担当した「池田亮司展」ブックレット、YOSHIROTTEN『SUN BOOK』から1ページずつを掲載しています。

「池田亮司展」ブックレットは、サンエムカラー独自の印刷技術「燦・エクセル・アート(印刷の8K)®」を用いて、通常よりも細かい印刷を行っています。池田亮司の繊細な作品の魅力を伝えています。

YOSHIROTTEN『SUN BOOK』は、JetPressを高濃度でプリントするサンエムカラーならではの設定を行い、濃密な一枚になっています。YOSHIROTTEN本人に印刷を納得いただいたアートブック。そこからページを選定いただきました。

著名なアーティストによる作品を通して、他の印刷との質感の違いを手に取って実感いただけたらと思います。印刷のご依頼もお待ちしております。

「池田亮司展」ブックレット

フランス・パリと日本を拠点に国際的に活躍するアーティスト/作曲家である池田亮司(1966-)は、テクノロジーを駆使し、光や音を用いて鑑賞者の感覚を揺さぶる没入型の作品を数多く発表してきました。本展では、2009年以来となる国内美術館での大規模な個展として、新作を含む近年の池田の活動を展観します。

作品解説や展示風景写真を収録した展覧会ガイドブック(日英バイリンガル)です。吉竹美香氏による論考のほか、バーバラ・ロンドン氏による作家へのインタビューを掲載しています。https://www.hirosaki-moca.jp/exhibitions/ryoji-ikeda/



SUN BOOK by YOSHIROTTEN

本作品集「SUN BOOK」は限定365部が制作され、表紙は12種類のバリエーションを持っています。デザインはYOSHIROTTEN本人が手掛け、印刷は国内最高峰の印刷技術を誇るサンエムカラーが担当。表紙や裏表紙、小口はメタリックに統一され、約6cmもある背表紙は糸かがりという剥き出しのような仕様に。中面はプロジェクトのコンセプトに合わせ、365点のアート作品が日付と共に印刷されています。その佇まいはまさにオブジェと言い得るクォリティ。かつて誰も目にしたことのない、そしてこれからも目にすることのないであろう前代未聞のアートブックが誕生しました。
https://sunproject.ydst.io/


今回掲載した印刷物のゲラです。左が池田亮司、右がYOSHIROTTON。

過去にも『デザインのひきだし』に掲載

サンエムカラーが以前の『デザインのひきだし』は下記になります。古書店などでお手に取ってみてください。

『デザインのひきだし』27号
https://dhikidashi.exblog.jp/25276518/

『デザインのひきだし』34号
https://www.sunm.co.jp/topics/news/published/2039

『デザインのひきだし』35号
https://twitter.com/yukiakari/status/1050622695052726273

書誌情報

デザインのひきだし50

特集「現代日本の印刷加工大全」

発売日:2023年10月刊行
仕様:B5 並製 総160頁
定価:3520円(10%税込)
ISBN:978-4-7661-3743-9
分類コード:C3070

https://www.amazon.co.jp/dp/4766137434

 

第56回造本装幀コンクール 石川直樹『Kangchenjunga』受賞、過去受賞作紹介

2023.6.21  お知らせ, 業務実績, 受賞関連ニュース!, 印刷作品アーカイブ  , , , , , , , ,

第56回造本装幀コンクールで、石川直樹Kangchenjunga』が審査員奨励賞を受賞しました。

サンエムカラーは印刷を担当しました。今回、315点の応募からの入賞となります。関係者のみなさま、おめでとうございます!

写真家の石川直樹さんは、世界各地の辺境から都市までを活動領域に、自身が関心を寄せる人類学や民俗学などの視点を取り入れながら撮影を行います。今回の写真集は、写真を包むような余白の多い造本設計が特徴的な一冊で、新たな読書体験を想起させる装幀となっています。

サンエムカラー担当営業 篠澤のコメント
「『Kangchenjunga』は出版、デザイン、印刷、製本がチームとなって製作する事ができ、とても楽しかったです。製作は一貫して後ろ向きな雰囲気がなく、みんなが面白がって前向きに進んで完成させる事が出来ました。また、このチームで仕事がしたいです」

受賞作の内容

表参道「GYRE GALLERY」で2022年に開催された石川直樹写真展「Dhaulagiri / Kangchenjunga / Manaslu」に合わせ、創刊された写真集。 ヒマラヤ山脈の東、インド・ネパール国境にある難峰で、世界第三位の高さを誇るカンチェンジュンガ。山麓の街であるダージリンから8586mの山頂に至る過程で撮影された写真群から成る、大判の写真集です。 デザインを担当したのは、自身がアーティストとしても活躍しているグラフィックデザイナー、加瀬透氏。本来内側にくるべきノドの部分を外側にし、余白を多く設けることで白銀の世界を表現するなど特異な造本設計が施されています。これまでの石川氏の作品集とはまた異なるラディカルな仕様の一冊となりました。カバーは背面部分に付属する丸タックで留めることが可能。

書籍名 『Kangchenjunga』
著者 石川直樹
アートディレクター 加瀬透
出版社 POST-FAKE
装幀 篠原慶丞
印刷 サンエムカラー
製本 篠原紙工
製作部数 1000部限定
判型 A3ノビ(30cm×40cm)120P
製本様式 平綴じ+2つ折り
用紙の種類 モンテルキア菊判Y目77.5kg、カバー:Kクラフト310g/m2

 


造本装幀コンクールとは?

造本装幀コンクールは、日本書籍出版協会・日本印刷産業連合会が主催する造本装幀にたずさわる人々(出版、印刷、製本、装幀、デザイン)の成果を総合的に評価する出版業界で唯一の賞です。
入賞作品は、ドイツ・ライプツィヒの「世界で最も美しい本コンクール」に日本を代表して出品され、 さらにフランクフルト・ブックフェアで展示されます。国内では、9月22日〜11月に神保町の出版クラブビル「クラブライブラリー」にて「第56回造本装幀コンクール 全出品作品」を公開展示します。その後、入賞作品は、印刷博物館をはじめ国内巡回展示されます。

過去の受賞作の印刷技術を紹介

サンエムカラーは造本装丁コンクールで、今回の受賞を含めると今までに15作品を受賞しています。今回の受賞の記念として、過去の受賞作を紹介させてください。印刷にこだわった部分、協力会社さんと一緒に挑戦した部分をお楽しみいただけましたら幸いです。


FMスクリーン印刷ならではの濃厚な質感


『BIOSOPHIA of BIRDS』
第43回造本装幀コンクール 東京都知事賞(2009年)

東京大学総合研究博物館の東京大学創立130周年記念特別展示「鳥のビオソフィア──山階コレクションへの誘い」展を契機に、写真家上田義彦が世界有数の鳥類コレクションを誇る山階鳥類研究所の鳥類標本を撮った写真集。

この作品はFMスクリーン印刷の飛び抜けた美しさと、高度な製本技術(新日本製本)が審査委員に注目され、受賞が決定したそうです。当社が長年にわたり手懸けてきたFMスクリーンの印刷技術が評価されました。


長時間露光による都市写真



北野謙 『溶游する都市』
第44回造本装幀コンクール 経済産業大臣賞(2010年)

写真家・北野謙が90年代の東京の路上をスローシャッターで撮影したモノクロ写真シリーズ。当時20代の北野は、自己と世界、自己と他者の存在をとらえる視座を模索しながら、三脚を立てスローシャッターによる撮影で目の前の光景をとらえようとしました。

印刷では、スミとグレーの特色などのかけあわせにより、独特な深く淡いモノクロの世界観を描き出しました。デザインはマッチアンドカンパニーの町口覚さん。装幀はもとより、印刷も美しい一冊になっています。


豚革のふっくらした表紙に印刷


ムラタ有子『ムラタ有子作品集』
第45回造本装幀コンクール日本印刷産業連合会会長賞(2011年)

国内外で注目される現代アーティスト、ムラタ有子の作品集。動物や風景をモチーフに、独特な間を生み出す作品が評価され、国内外問わず油彩画、水彩画の展覧会を開催しています。

通常版の表紙は紙ですが、限定版の表紙には豚革が使用され、ふっくらとした手触りの造本。革への印刷は一枚一枚インクジェットで行い、本紙はFMスクリーンを使用した再現性の高い印刷になっています。表紙の種類は3種類あります。


世界初の製本技術でダブル受賞



ミシマ社刊『透明人間 再出発』
第46回造本装幀コンクール 経済産業大臣賞、出版文化産業振興財団賞(ダブル受賞)(2012年)

毎日一詩を書く詩人の谷郁雄さんの31の詩を載せています。また、全詩「透明人間」になったような視点で読むことができる、見ることができるのも特長です。詩が半透明の用紙に、写真が通常の用紙に印刷されています。詩と写真が交互に展開され、それにあわせ一枚一枚用紙も変化していきます。

今回、世界初の製本技術を使用した一冊です。写真の上にろうびきした純白ロール紙を挟み込み、文字の下に写真が透けて見える仕様になっています。この方法は「ENバインディング製法」と呼ばれています。


限界を超えるほどの高濃度で印刷


杉田一弥『杉田一弥活花作品集 香玉』
第48回造本装幀コンクール 日本印刷産業連合会会長賞(2014年)

活花作家である杉田一弥さんの作品集。写真は木村羊一さんが5年にわたって撮り続けたもの。ブックデザインは西岡勉さん。

今回はFMスクリーンを使用し、塗工のない紙に高濃度で印刷を行いました。本文は4色+グロスニス、表紙の帯などはスミ+濃スミ+特アカで印刷していますので、こってりと濃厚な「黒」と、色鮮やかな「花」「花器」の色の対比を楽しんでいただけるような印刷設計になっています。表紙は艶のあるクロス貼り、カバーとの質感の違いも楽しい造本設計。


造本がすべて異なる7冊を同封

大竹伸朗『憶速』特別版
第48回造本装幀コンクール 審査員奨励賞(2014年)

2013年夏に高松市美術館で開催された、「記憶」の「速度」と創作の関係性を軸にした大竹伸朗の展示のカタログです。7セクションからなる展示構成をそのままに、7冊のサイズと造本が異なるカタログとDVD、ポスター、資料集、インスタレーションカタログ、11アイテムがニードル・フェルトの特製ケースに入っています。

図版冊子はすべて最終ページだけ用紙が違います。セクション2〜5は中綴じのため一緒には綴じることができず、前のページに糊でくっつけております。今までやったことがない製本だったため、形の想像がつかず、完成形が見えない中での試行錯誤でした。


ページごとに異なる紙を使用




川島小鳥『おやすみ神たち』
第49回造本装幀コンクール 出版文化産業振興財団賞(2015年)

谷川俊太郎さんの詩27篇と、川島小鳥さんの写真102点を織り交ぜ、目には映らない「タマシヒ」とその来世での行き先を探求した作品です。うららかな日差しの下で撮られた風景はどこか懐かしい雰囲気をかもし出しています。

写真や詩のニュアンスに合わせ、ページごとに異なる風合いの紙が使用されています。中には薄くて裏の詩が映り込むページも。どの紙質も同様に鮮やかな仕上がりになるよう、印刷に工夫がこらされています。本のカバーを取り外してみると、灰色の厚紙仕様の表紙に銀色の箔押し文字で本文にはない詩が書かれています。


シルクスクリーン作品を高輝度インキで再現

安西水丸『ON THE TABLE』
第51回造本装幀コンクール 日本書籍出版協会理事長賞(2017年)

2014年に急逝したイラストレーターの安西水丸さん。アトリエに残された作品を整理するなかで、新たに見つかったのが個展のためだけに制作されたシルクスクリーンの作品です。

安西さんによるシルクスクリーン作品30点を集録した本作は、美しいものを見る素朴な喜びを喚起させます。シルクスクリーン独特の鮮やかな発色を高輝度インキで再現しました。裏表紙には白い箔で押された安西さんのサインが本書そのものの作品としての存在感を静かに語ります。


コデックス製本に藍染め作品を使用




福本潮子『藍の青』
第50回造本装幀コンクール 出版文化国際交流会賞(2016年)

日本人の色彩観・美意識の象徴の一つである藍染の世界を探求し、第一線で活躍を続ける福本潮子さん。本書は1977年から2015年の最新作に至るまで、約40年間に渡る仕事の軌跡を辿る集大成の作品集です。

コデックス製本の背表紙には福本さんご自身の作品「青の儀式」を裏打ち・断裁して使用しており、作品集そのものがひとつの作品として存在感を放ちます。今回の作品集には「藍色」の美しい印刷表現が求められ、念入りな校正や印刷立会を重ねて皆さまのお手元に届けられていています。


徐々に変化するテキストの色


池内晶子『Akiko Ikeuchi』
第52回造本装幀コンクール 最優秀賞文部科学大臣賞(2018年)

広い空間に絹糸を張り巡らせる方法で、インスタレーションの作品を生み出される池内さんは個展の開催を続けてこられました。展覧会に併せて、1994年から2015年にかけての個展の記録を一冊の図録として刊行しました。

厚いボール紙の表紙に、書籍中に織り交ぜられた材質の異なる紙。洗練されたデザインが中の作品の世界をぐっと引き立てます。冒頭から巻末にかけて、作品写真の合間に配されたテキストページの文字は、ぱっと見てはわからないほどの差で、銀色から銅色へと少しずつ変色していきます。


「紙象嵌」(かみぞうがん)加工が施されたボックス



ロート製薬『THE LOVING INSTRUCTION MANUAL』
第52回 造本装幀コンクール 審査員奨励賞 (2018年)

このブックレットは、妊活に向き合う上で生じやすい夫婦間のギャップを埋めるためのツールであり、男性と女性で異なるココロとカラダの仕組みや一ヶ月間のリズム、妊娠する上で必要な知識などパートナーに理解しておいて欲しいことをまとめています。

優しいタッチのドローイングと文章が隣り合った手の平におさまるこのシンプルな本。ボックスの外観の文字は、通常のエンボス加工ではなく、ベースの紙の上に種類の異なる紙を嵌(は)め込む「紙象嵌」という加工が施されています。


小口四面すべてに天金加工



今城純『forward』
第54回造本装幀コンクール 東京都知事賞(2021年)

写真家の今城純さんが5年の歳月をかけてフランス各地のメリーゴーランドを撮り溜めた写真集。普段写真集を買わないような人でも飾っておきたくなる雑貨のような魅力を持った本を目指し、判型は気軽に手に取れるような小さめのサイズ。

装幀のポイントであるドイツ装の小口四面全てに施された天金加工は、メリーゴーランドの装飾や色の印象を写真集に象徴的に落とし込んでいます。写真集では珍しく上から蓋をかぶせるタイプの箱に収められています。


一冊の中にさまざまな紙が混在



『Arts and Media / volume 10』
第54回造本装幀コンクール 産業大臣賞(2021年)

大阪大学文学研究科アート・メディア論研究室が発行する『Arts and Media』は、アートとメディアの原始の関係に改めて注目し、芸術をもう一度、情報伝達の手段として見てみたい、そんな熱望から生まれた雑誌。

この本は、一冊の中に様々な紙の種類が混在し、文字の色もページごとに違います。複数の用紙を使用して、用紙ごとに本文の寸法が違う並製本。 本文はすべて、1枚ずつ丁合をとり、製本後に仕上げ断裁はしない仕様。


木の板を彷彿させるコデックス装



『天童木工とジャパニーズモダン』
第55回造本装幀コンクール 日本製紙連合会賞(2022年)

デザイン史に残る数々の名作家具を世に送り出してきた、日本を代表する家具メーカー天童木工、80年の歩みをまとめた一冊。

木目を意識した本のデザインが非常に楽しく、コデックス装も相まって分厚い合板のような雰囲気も感じられます。複数の色の紙を使用しながらも全体の印刷の色の雰囲気をまとめる必要があり、サンエムカラーとしても工夫をしながら印刷しました。


お問い合わせはお気軽に!

サンエムカラーでは、デザイナー、編集者、製本会社など協力会社さんと一緒に培ってきた経験と実績をもとに、これからもより良い造本装丁を続けていきます。新しい方々からのご依頼もお待ちしておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。