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カテゴリ:立会いにいらっしゃいました!

写真家・横山隆平、彫刻家・長谷川寛示、作品制作のために来社

2023.5.22  カサネグラフィカ, 作品制作, 業務実績, 立会いにいらっしゃいました!, 展覧会・イベント情報  , , , , , ,


アーティスト2名による印刷立ち合いのレポート

サンエムカラーでは、美術館やギャラリーで展示をするアーティストが来社して、作品制作を行うことがあります。今回はアーティストとコミュニケーションを取りながら、紙以外のさまざまなメディアにプリントを行い、作品が完成していく過程をお届けします。サンエムカラーのスタッフは美術関連の印刷を日々行っているので、そこで培ったスキルを発揮する腕の見せ所です。

 

先日、写真家の横山隆平さん彫刻家の長谷川寛示さんが、それぞれの個展に向けた作品制作のため、共にサンエムカラーの京都本社に来社しました。

横山さん、長谷川さんは京都市京セラ美術館で現在開催中の「特別展 跳躍するつくり手たち」で、それぞれの作品を展示するだけでなく、共作も展示しています。また、お二人ともサンエムカラーの印刷技法「カサネグラフィカ」を使って作品を制作することから、今回揃っての制作立ち会いが行われました。今回使われる技法のカサネグラフィカは、メディアにインクを何層も「重ね」て塗ることで、独特の質感を作品にもたらします。

一日がかりの作品制作は、横山さんからスタートしました。

 


横山隆平「WALL cutout / BLIK #01#02」制作風景

横山さんは、サンエムカラーが大判のUVプリンタ「スイスQプリント」を使ったカサネグラフィカの技法を始める前から、これまでに多くの作品のプリントを行ってきました。

今回の横山さんの新作「BLIK」は、鉄板に木枠を取り付けたメディアに、顔料箔やスプレーを施し、その上にカサネグラフィカでプリントを行いました。

今までにいくつもの作品をカサネグラフィカで制作してきた横山さんは、プリントの特性を熟知しており、データづくりから出力方法まで十分に心得ています。プリントするデータの処理も、これまでの経験から横山さん専用にチューニングされたICCプロファイルで変換して、数回のテストプリントを経て本番を行いました。

横山隆平「WALL cutout / BLIK #01#02」完成。

 


横山隆平「WIND [No. 05 May 6, 2023]」制作風景

もうひとつの作品「WIND」は、アルミボードにハーネミューレ紙を貼ったメディアに、顔料箔とスプレーを施してから、プリントを行いました。

このプリント方法は過去にも行っていて、今回は過去の作品と同じ風合いになるように調整してからプリントをしました。

プリントは焼き込みのような方法をとっていて、数回の塗り重ねで意図した仕上がりになるように調整しています。

今回のメディアとなるアルミと顔料箔、スプレーの上へのプリントは、インクの乗り方が異なります。仕上がりを確認しながら、横山さんの望んでいる調子の部分を塗り重ねていきます。

写真制作の基礎である暗室でのプリント現像の焼き込み、シルクスクリーンの追い刷り、そういった手仕事のようなことをデジタルを介して行なう作業は、毎回面白いなと感じています。

横山隆平「WIND [No. 05 May 6, 2023]」完成。

 


長谷川寛示「bottle to bottle」制作風景

以前、長谷川さんは木彫りの植物の葉の上に、テキストをプリントする彫刻作品を制作しました。今回は彫刻作品ではなく、本銀箔とカラーを施した木枠にモノクロのプリントを行います。

仕上がりのイメージの確認のため、まずフィルムにプリントをして、それを木枠に重ねて確認を行いました。モノクロ作品を二階調にした作品は、画像処理やRIPの工程で余計な色分解をしないよう、また風合いが変わらないように処理を施しました。

何度かのトライアンドエラーのなかで生まれたアイデアにより、わざと二階調の生成を荒らす処理を試み、味わいや色気の良さからその方法で最終的に決定をしました。

作家とのディスカッションによって、長谷川さんの作品がブラッシュアップされる瞬間は、この場でなければ起こりえないので、作品の生み出される面白みを感じました。

 

プリントしてみないとわからない

プリントの方針が決まり、テストピースのプリントを行いました。

フィルムの上にに乗せるのと、実際にプリントするのでは、風合いが変わることが予想されるので、まずは本番前に小さいテストピースを制作します。テストピースへのプリントは、フィルムよりも軽い仕上がりになるので、その変化量を逆算してから本番を行いました。

 

引き算の設計

一般のインクジェットプリンタは、モノクロデータでプリントするとカラーインクを含んだ分色を強制的に行います。カサネグラフィカでは、モノクロ作品の場合、黒インクのみや墨基調の分版のような印刷の製版に近い処理を行います。どちらにも長所と短所があります。

当初は黒インクの上にニスを乗せる予定でしたが、銀箔と黒インクの馴染みが良く、ニスを加えると質感に差を与えすぎるという判断から、黒インクを乗せるだけの設計になりました。

この引き算の判断は、工程や手数を増やして付加価値を付けるという発想でなく、良い作品をつくるための思い切った判断で個人的にグッときました。

長谷川寛示「bottle to bottle」完成。

完成した作品は梱包を施した後に、個展が行われる東京のギャラリーへと旅立って行きました。京都、東京の会場で、横山さん、長谷川さんの実際の作品をご高覧ください。

 

サンエムカラーでは、アーティストが構想する作品を具体化するために、印刷技術や作品の方向性を意見交換をしながら、作品制作の協力を行っています。連絡いただけましたら、より良い作品を世に出すためのお手伝いをさせてください。

 


展覧会情報

横山隆平「CITY from the WIND / Carpe diem」
KANA KAWANISHI GALLERY(東京)
2023年6月3日〜7月1日
https://www.kanakawanishi.com/gallery

長谷川寛示「decey,remains」
KANA KAWANISHI GALLERY(東京)
2023年5月27日〜6月24日
https://www.kanakawanishi.com/exhibition-041-kanji-hasegawa

「特別展 跳躍するつくり手たち」
京都市京セラ美術館(京都)
2023年3月9日〜6月4日
https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20230309-20230604
横山さん、長谷川さんそれぞれの作品と共作が展示中。

写真家・宮武健仁様が印刷立会いのため来社されました

2019.6.13  立会いにいらっしゃいました! 

海、川、山、火山、そして蛍といった日本の壮大な自然を写し続けている風景写真家・宮武健仁様の写真集が、このたび京都の出版社・青菁社様より出版されることになり、印刷立会いのため来社されました。

 

立会いは青菁社・日下部社長も同席のもと順調に進みました。

 

 

今回の写真集のタイトルは「shine 命の輝き」。蛍や夜光虫、光るキノコをダイナミックな構図で切り取られ、見る者を惹きつける内容となっています。

印刷方式は高濃度FMスクリーンを選択。闇夜に浮かぶ生命の輝きを精彩に再現しました。

 

夏を感じさせる写真が多く、これからの季節にぴったりな写真集になりそうです。

書店等で見かけた際は是非お手にとってご覧ください!

石内都さん 個展『肌理と写真』

2017.12.21  立会いにいらっしゃいました!, 展覧会・イベント情報 

アジア人女性として初めてハッセルブラッド国際写真賞を受賞するなど、
現代写真界において最も重要な写真家の一人、石内都さんが、
12月9日より横浜美術館にて開催中の個展『肌理(きめ)と写真』の図録の
印刷立会いに11月16日にいらっしゃいました。

 


▲刷り上りの確認をする石内さん(中央)と、出版社・求龍堂の三宅さん(左)。

 

 

立会いの取材に伴い、今回の展覧会の趣旨や石内さんの写真に
対する向き合い方など、様々な貴重なお話をお聞きしました。

 


▲取材に応じてくださった石内さん。

『肌理と写真』が開催される2017年は、
石内さんの写真家としてのキャリアの実質的な
スタートとなった個展『絶唱、横須賀ストーリー』より40年を
数える年です。その間、様々な被写体にカメラとともに
向き合ってこられた歴史を表すように、展覧会では
初期から現在、未発表に至るまでの作品が、テーマを
「横浜」「絹」「無垢」「遺されたもの」の4つに分けて展示されます。

 

展覧会タイトルにある「肌理」は、デジタルにはない
フィルムプリントならではの「印画紙を染める感覚」で
生み出される粒子が詰まった黒、散った白を表したキーワード。
同時に、石内さんの作品で一貫して捉えられている、建物や人、遺品の表面に
込められた長い時間の層を表す言葉でもあります。

同じくタイトルにある「写真」という言葉について
石内さんはご自身のことを繰り返し
「写真から自由」であると表現されていました。

大学で染織を専攻されていた石内さんにとって、
写真の道は完全なる独学から始まりました。
カリキュラムのある中で学ぶということがなかったので、
例えばカメラの構え方であったり、写真を
学んだ人にとっては基本ルールのようなものになっていることに
縛られずに、失敗を重ねながら独自のスタイルで写真を続けてこられたことが
「枠に囚われない自由な写真」を生み出してきたのではと言われています。。

近年の作品である『Mother’s』シリーズに始まる遺品を
撮影した連作は、「遺されたもの」というテーマのもとに展示されています。
2005年のヴェネチア・ビエンナーレで出品された『Mother’s』は、
母親の遺品を撮影したシリーズ。
この出品がフリーダ・カーロの遺品を撮影した『Frida by Ishiuchi』、原爆で亡くなった人々の
遺品を撮影した『ひろしま』シリーズへとつながりました。
メキシコや広島へは、「母が連れて行ってくれた」とおっしゃいます。

 


▲立会いの最後には無事にOKのサインをいただき(上)、
印刷機の横でポーズをとってくださいました。

 

横浜には、デビュー以来自らの手でモノクロプリントを
作り続けてこられた暗室があります。
2018年1月には群馬県桐生市に移られるということもあり、
今横浜という地で展覧会を開くことは、
石内さんにとって大きな意味があるということです。

 

世界で活躍する写真家の原点なる地で、作品が纏う時間の肌理を感じてみてはいかがでしょうか。

 

 

石内都『肌理と写真』GRAIN AND IMAGE

会場:横浜美術館(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
会期:2017年12月9日(土)〜2018年3月4日(日)
10時~18時(入館は17時30分まで)
   *2018年3月1日(木)は16時まで
*2018年3月3日(土)は20時30分まで
(入館は閉館の30分前まで)

休館日:木曜日 *ただし、2018年3月1日を除く
年末年始(2017年12月28日[木]~ 2018年1月4日[木])

 

 

図録 『肌理と写真』

著者:石内都
出版社:求龍堂
仕様:Y177xT252・薄紙上製本・252頁
定価:2700円(税抜)

 

 

 

 

 

池内晶子さんが個展図録の印刷立会いにいらっしゃいました

2017.12.16  立会いにいらっしゃいました!, 展覧会・イベント情報 

12月7日(木)より、東京・世田谷区のgallery21yo-jにて
作家・池内晶子さんの個展が開催されています。

広い空間に絹糸を張り巡らせる方法で
インスタレーションの作品を生み出される池内さんは、
1994年より同ギャラリーにて個展の開催を続けてこられました。
この度の展覧会に伴い、1994年から2015年にかけての個展の記録を
一冊の図録として刊行されます。
サンエムカラーでは、この記念すべき作品集の
印刷を担当させていただきました。

 

印刷から装丁、紙の厚みの構成など、作品に呼応するように
繊細で美しい本に仕上がりました。

 

この作品集のこだわりの一つに、文字の色があります。

 

 

上の写真では分かりにくいですが、冒頭から巻末にかけて
作品写真の合間に配されたテキストページの文字は、
ぱっと見てはわからないほどの差で、銀色から銅色へと
少しずつ変色していきます。

会場に展示されている間に、池内さんの作品に使われる絹糸は
空気にさらされて黄変していくそうです。
作品の表情が刻一刻と変化する様子が文字の色によって表現され、
三次元の作品と二次元の作品集が時の流れによりつなぎあわされています。

 

11月には、池内さんご本人が弊社印刷工場へ
印刷立会いにいらっしゃいました。


▲色味をチェックされる池内晶子さん(右)とデザイナーの小池さん(中央)。

 

細い絹糸で静かに空間を成立させる池内さんの
作品を最大限表現する繊細な印刷が試されます。

決して色数の多い本ではありませんが、だからこそグレー、赤、青
色の変化をあますところなく捉える印刷が大切です。

 

 

 


▲gallery21yo-jのオーナー・黒田さん(上写真・右)と
編集の櫻井さん(下写真・右)にもご確認いただきました。

 


▲今回の立会いも無事にOKをいただきました。

 

 

 

身体との親和性が高い絹糸は、柔らかく、切れやすい。床の糸は、1本で繋がっており、糸巻きに巻きつけられたクセを伴い、落下の軌跡となっている。かたちが成立する最小の支持4点で宙づりにした糸は自重と張力のバランスで成り立つ。人が近づけば、糸は揺れ、呼気に含まれる湿気で弛緩し、遠ざかれば、緊張を取り戻す。磁力-地球により生じる磁場、常に一定ではなく、絶え間なく変化している地磁気を基準としての方角、ここでは北西-南東、北東-南西に軸糸を沿わせることによって、建物の内側だけでなく、外側にもまなざしを向けることになるのではないか。この土地の成り立ちや、軸糸の指し示す4つの方向をたどり、そしてそれらに支えられてあるとも考えられる。

(池内さん HPより)

 

図録で見る表情だけでなく、見る人が近付くことで
形を少しずつ変える糸の姿を、ぜひその目で、会場でお楽しみください。

 

池内晶子 作品集

著者:池内晶子
仕様:Y190×T280
PUR製本、ドイツ装、特殊帯
定価:3,900円(税込)

池内晶子 IKEUCHI Akiko

会場:gallery21yo-j
2017年12月7日(木)-12月24日(日)
休廊日:月−水曜日
開廊時間:13:00−18:00

 

田村尚子さんが写真集『杮』の立会いにいらっしゃいました!

2017.11.6  立会いにいらっしゃいました! 

11月1日(水)、写真家の田村尚子さんが、ご自身の主宰するクリエイターユニット・ヴュッター公園にて
制作される写真集『杮(こけら)』の印刷立会いにいらっしゃいました。


▲色調をチェックする田村尚子さん。

 

この写真集は、大徳寺・真珠菴書院通仙院の杮屋根の葺き替え工事
および茶室・庭玉軒(ていぎょくけん)の修復工事の完了を記念して、
時を経て朽ちた屋根や建物が真新しく生まれ変わるまでを一冊の本に記録したものです。

 


▲古色豊かな古い屋根と葺きたての美しい杮屋根、両方の
魅力を最大限伝えるためにこだわりぬきました。

 


▲デザイナーの近藤一弥さんにもチェックをいただきます。

 


▲写真の台は、特色の銀の上にスミを重ねて、普通のモノトーンとは
ひと味違う仕上がりになっています。

 


▲OKのサインをいただきました。

 

建築そのものの変化だけでなく、普通は目にすることのない伝統的な
工事の様子や工事中の周辺の景色が収められた、後世に残る貴重な
記録になりました。

11月17日(金)から19日(日)にかけては、この庭玉軒にて修復完成記念の
お茶会が催されるとのことです。

大徳寺では、真珠庵・庭玉軒は通常非公開となっていますが、
黄梅院などの塔頭寺院で秋の特別公開が行われています。
寒さがだんだんと増してきますが、秋の京都を感じに
お寺巡りに出かけられてはいかがでしょうか。