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カテゴリ:作品制作

岡田 嘉夫「新・源氏物語」 原画展 開催のお知らせ

2024.4.19  カサネグラフィカ, 作品制作, 業務実績, 文化財, 保存・修復のお仕事, お知らせ  , ,

岡田 嘉夫「新・源氏物語」 原画展 開催

田辺聖子(1928-2019) が週刊朝日に足掛け5年169回 連載した「新・源氏物語」に岡田嘉夫 (1934-2021)が 約340枚の挿絵を担当。 今回は50年振りにその一部を 展示公開。
また、当時や晩年に制作した版画作品も展示 販売。岡田画伯の繊細な画筆をご鑑賞ください。

サンエムカラーの関連会社である燦京堂が開催の協力を行なっています。

展示情報
会期:2024年5月2日 (木) – 8日 (水) <入場無料>
午前10時~午後7時(最終日は午後4時まで)
主催:岡田嘉夫展実行委員会
協力: (株) 燦京堂、 ヤマネアートプランニング、ギャラリー白

会場:京阪百貨店守口店 6階 京阪美術画廊
京阪電車「守口市」 駅、 Osaka Metro 谷町線 「守口駅」下車
〒570-8558 守口市河原町8-3
電話:06 (6994) 1313
ホームページ: https://www.keihan-dept.co.jp/

展示作品

【第二十一帖 少女】 初恋は空につれなき雲井の少女の巻

【第二十二帖 玉鬘】 恋のわすれがたみ日陰の玉の巻

【第二十四帖 胡蝶】 春の夜の夢に胡蝶は舞うの巻

 

【第33帖 藤裏葉】

 

作家プロフィール

岡田 嘉夫(おかだ よしお)。1934年〜2021年1月31日。日本の画家、グラフィックデザイナー。源氏物語などの古典作品を題材とした小説の挿画や、田辺聖子をはじめとする作家との共著により、現代的な絵草紙を数多く手がける。鮮やかな色彩、大胆な構図、官能的な描線を駆使することで独自の世界を構築し、現代の浮世絵師とも称されている。

来歴
1934年(昭和9年)、神戸市中央区に生まれる[3]。
1953年(昭和28年)、兵庫県立長田高等学校を卒業後、神戸ドレスメーカー学院(後の神戸ファッション造形大学)などで服飾やデザインについて学ぶ一方、デッサンや絵画技術向上のため自己研鑽に努める。
1971年(昭和46年)から、挿画を中心に本格的な画家活動を開始する。
1973年(昭和47年)、講談社出版文化賞受賞。

著書・共著
『田辺聖子の小倉百人一首(続)』文:田辺聖子、絵:岡田嘉夫(1987)角川書店
『みだれ絵双紙・金瓶梅』文:皆川博子、絵:岡田嘉夫(1995)講談社
『仮名手本忠臣蔵 (橋本治・岡田嘉夫の歌舞伎絵巻 (1))』文:橋本治、絵:岡田嘉夫(2003)ポプラ社
表紙・挿画(書籍)
『新源氏物語(上)(中)(下)』<文庫>文:田辺聖子(1984)集英社
『双調平家物語(2)栄花の巻Ⅰ(承前)』文:橋本治(1999)中央公論社
『いよよ華やぐ(上)(下)』文:瀬戸内寂聴(1999)新潮社
『天切り松 闇がたり(1)闇の花道』文:浅田次郎(1999)集英社

KYOTO INTERCHANGEとサンエムカラーによる「金氏徹平 森千裕」展カタログ限定発売

2024.1.15  作品制作, 業務実績, お知らせ  ,

表紙にイメージが変化するレンチキュラー印刷を使った、作品としてのカタログ

この度、KYOTO INTERCHANGEと株式会社サンエムカラーは、アーティスト金氏徹平と森千裕による展覧会の記録として、限定90 冊のカタログを制作し、販売を開始します。

https://www.sunm.co.jp/shopping/
※本書はこちらから購入いただけます。

金氏・森はこれまでも、株式会社サンエムカラーの技術を使いレンチキュラー印刷による作品を多数発表してきました。これまでの協働を活かして制作された作品としてのカタログで、2023年8月から10月まで開催した展覧会の記録であり、表紙はアート作品として楽しめる1冊として仕上げました。

 

レンチキュラー印刷について

シート状のレンチキュラーレンズを用いて、見る角度によって絵柄が変化したり、立体感が得られたりする印刷物のこと。一般的なレンチキュラーは、既製のレンズシートを使い、1方向にしか変化させることができません。サンエムカラーでは、レンズを透明インクで生成する事で、変化の方向や有無を自由に混在させる事ができます。この技術は、これまでアクリルのみの技法でしたが、新たに紙面にもレンチキュラーを生成する事に成功し、今回のカタログの表紙で初の技術採用となりました。
表紙には新しい作品として森千裕の「フルーツ・キャッチ」シリーズをレンチキュラー化しています。グローブとフルーツのイメージは横方向にポジネガに変化し、背景色は縦方向に変化します。

カタログ情報

サイズ:25×25cm 厚さ1cm
部数:90冊(表紙6種×15冊)
価格:55,000円(税込・送料込み)※販売はそれぞれのウェブショップで行います。
https://www.kyotointerchange.com/shop https://www.sunm.co.jp/shopping/
デザイン:松見拓也
写真:加納俊輔
発行:KYOTO INTERCHANGE
印刷:株式会社サンエムカラー

掲載展覧会情報

金氏徹平 森千裕
会期:2023年8月19日(土)-10月30日(月)
会場:半兵衛麸五条ビル2F ホールKeiryu
主催:KYOTO INTERCHANGE
協力:株式会社 半兵衛麸
キービジュアルデザイン:見増勇介(ym design株式会社)

◾金氏徹平|Teppei Kaneuji
1978年京都府生まれ。2003年京都市立芸術大学大学院修士課程美術研究科彫刻専攻修了。現代社会で再生産され続ける物、情報、イメージを、リズミカルに反復と増幅を繰り返し展開させ、個々の物体が持つ本来の意味が無視されて繋げられることで、思いもしなかったダイナミックな表現がもたらされている。彫刻を基点として、舞台美術や演劇まで表現方法は多岐にわたり、コラージュの概念や手法の延⻑として、他者とのコラボレーションも積極的に行ってきた。主な個展に「四角い液体、メタリックなメモリー」(京都芸術センター、2014)、「S.F.(Something Falling/Floating)」(市原湖畔美術館、2022)など。国内外でのグループ展も多数。
https://teppeikaneuji.site/

◾森千裕|Chihiro Mori
1978年大阪府生まれ。2005年京都市立芸術大学大学院修士課程美術研究科絵画専攻修了。独自の都市観察を通して目にとまった風景やロゴマークなどに加え、子供の頃に描いた絵などを積層し、見間違い、聞き違いも積極的に取り込み、時間や記憶、もしくは価値や文脈を捉え直すように再構築する。主な個展に「omoide in my head」(豊田市美術館、2017)など。国内外でのグループ展も多数。19年には、「東京2020公式アートポスター」の制作アーティストのひとりに選ばれた。
http://chihiromori.com/

森と金氏によるCMTKのコラボレーションは、森が⻑年にわたって日常的に撮影を続ける路上、風景、テレビ画面などを対象とした写真を、金氏が編集、コラージュし、物質と接続することから始まり、レンチキュラーなどの特殊な印刷、大理石やコンクリートなどへの印刷、アニメーションなどの映像、さまざまな素材を用いた彫刻作品としてアウトプットされてきた。これまでにArt Collaboration Kyoto 2021、やんばるアートフェスティバル 2021-2022、Kyoto Experiment 2022、Atami Art Grant 2022に参加。また2022から2024にかけてParcel(東京)、Jane Lombard Gallery(ニューヨーク)、Project Fulfill Art Space(台北)で二人の作品とCMTKの作品による展覧会を行なっている。

【KYOTOINTERCHANGEについて】
KYOTOINTERCHANGEはアーティストの美学的・社会的役割を最大限発揮するために設立されたアート・インスティテューションです。私たちは、アーティストの創造性を作品の制作と発表に限定せず、社会全般へと拡張し、ひいては社会を変革する原動力へと変えていくことを目指します。各プロジェクトの実現に際しては、アーティストおよび関与者に対するオープンで公平な態度、繊細な配慮と深い敬意を常に念頭におきます。また私たちは、利益の最大化を求める売買ではなく、倫理の共有を伴う交換(interchange)を原理としたエコノミーを提案します。アーティストの実践を強調することで、旧弊に囚われた多くのことが更新され、希望に満ちた未来のヴィジョンが可能となることを私たちは信じています。
※KYOTO INTERCHANGEでの本書の売り上げは、すべて次回以降のプロジェクトのアーティストのために使われます。
https://www.kyotointerchange.com/

【株式会社サンエムカラーについて】
写真集、書籍、図録、ポスターなどの印刷。文化財・美術作品のデジタル化と複製など、様々な特殊印刷に特化した印刷会社。当印刷を通して文化・芸術に貢献することを使命として、常に技術力を研鑽し、文化財のレプリカ、写真集、展覧会図録などの高品位な印刷を手がけてきました。高濃度印刷や高精細印刷等の高い技術力と、写真家やデザイナー等クリエーター系顧客の高い信頼をベースに、最近では、文化事業である数々の展示会・展覧会への出展のほか、各種多数の表彰実績をあげています。職人の技と心で、感動の印刷物を社会に届けていくことが私たちサンエムカラーの企業理念です。
https://www.sunm.co.jp/

KYOTOINTERCHANGEでの展覧会の様子

アーティストたかくらかずきと弊社プリンティングディレクターの制作対談

2023.12.5  作品制作, 業務実績, 印刷作品アーカイブ, お知らせ 

サンエムカラーでは、美術館やギャラリーでの展示作品も印刷しています。アーティストと制作過程でコミュニケーションをして完成していくことも多々。

これまでに、クリエイティブコーダー・高尾俊介さん写真家・横山隆平さん、彫刻家・長谷川寛示さんとの制作風景を紹介しました。

今回の記事は、アーティストのたかくらかずきさんとの制作を紹介します。たかくらさんと一緒に数多くの制作を行った、弊社プリンティングディレクター大畑との対談になります。

たかくらさんは、デジタルデータと仏教とキャラクターをテーマにドット絵、3D、ゲーム、印刷、NFT、AIなどを使った現代美術作品を制作。東洋思想による現代美術のルール書き換えとデジタルデータの新たな価値追求をテーマにしています。

サンエムカラーは、たかくらさんとの作品制作で、UVプリンタでの凹凸印刷やレンチキュラー印刷などをキャンバスやモニターなどメディアを問わずに印刷を行い、作家の表現の可能性を広げています。

 

サンエムカラーとの出会いと制作




展示「アプデ輪廻 / APUDE RINNE ver3.0 -三途の川渡り」@KYOTO HAUS(2021年)作品「釈迦三尊図」レンチキュラー印刷/アクリルマウント

——たかくらさんとサンエムカラーの制作を紹介できればと思います。まずはサンエムカラーとの出会いを教えていただけますか。

たかくら 2021年夏に行った個展「アプデ輪廻 / APUDE RINNE ver3.0 -三途の川渡り」に、木村浩さん(サンエムカラーのクリエイティブディレクター・営業)が来てくださったことからサンエムカラーと繋がって、それから一緒に制作を始めました。大畑さんと会ったのは、最初に会社見学をした時で、レンチキュラーの印刷ができることを押していて、UVインクでレンチキュラーが作れることを知りました。

大畑 僕はたかくらさんの作風がデジタルアートやピクセルアートという認識でした。その時はちょうど社内でレンチキュラー技術が実用化した時期で、凹凸印刷よりも熱が入っていて。サンエムカラーでレンチキュラーが最初にできたのは4年前(2019年)で、性能があまり良くなかった。金氏徹平さん(現代美術家)の作品を何回か作っているうちに精度が上がってきて。

たかくら 金氏さんからレンチキュラーの印刷ができないですかと聞かれたんですか?

大畑 金氏さんに「こういうことができるんですよ」と言ったら「じゃあやろうかな」という流れになりました。サンエムカラーがUVインクでレンチキュラーが作れるなんて外部からわからないので、技術ができた時にちょっと伝えていて。

——UVプリントのレンチキュラーではない、基本的なレンチキュラーの印刷はどういった方法になりますか?

大畑 2通りの作り方があり、かまぼこ状のレンズシートに直接インクジェットなどでプリントするか、印刷物をレンズシートに貼るという方法です。なので、レンズごとプリントするような、うちの作り方は特殊ですね。縦と横のレンチキュラーが混在したり、1か所にだけレンチキュラーを入れることができるのは、サンエムカラー独自の技術で他であまり見たことないです。先日、UVプリンタの会社SwissQ主催のコンテストの出展作品を見ると、海外では何社かレンチキュラーを作っていたので頑張ればできることなのかなと思います。

たかくら なるほど。気になっていることを聞いてもいいですか。UVインクでレンチキュラーをプリントする技術はどうやってできたんですか。

大畑 凹凸や透明をプリントできるSwissQのプリンターを社内に導入した時、その中にレンチキュラーのようなプリントをできるドロップティクスという機能が付いていました。しょうもない話ですが、それは年間ライセンス料を払うと使える機能で結構高い。そんな時に社員の村田が「自分たちでレンチキュラーを作れるんじゃない?」と言い出して、社員の惣引がレンチキュラーのことを0から勉強して、透明インクでレンズをプリントする方法を編み出したという経緯があります。

サンエムカラーの場合、レンチキュラーの歴史があるわけではなく、10年以上前に社内でレンチキュラーの結構高いアプリを導入して試していました。その経験があったので、UVインクでレンチキュラーを作れました。ただ、現在UVインクでレンチキュラーを作っていますが、普通のレンチキュラーを製作する経験はあまりないです。レンチキュラー専業の会社とは全然違う流れを辿っていて、UVプリンタでアートピースを作るというコンセプトから派生してレンチキュラーができたので、レンチキュラーありきではないという独特なポジションとなっています。

たかくら レンチキュラーは、僕も考えた結果にたどり着いた制作方法でした。「デジタルの作品をただ印刷しただけではアートピースにならない」と言われていた時代から僕はデジタル作品や印刷作品を作っていました。そこで、2次元である平面作品に時間や立体感など、プラス一次元の要素を入れ込む技術のひとつとして、レンチキュラーが適しているのではないかと考えました。レンチキュラーであれば、デジタル印刷作品である意味を十分に生かしたままアートピースとして成立させられる、と思ったのです。2016年に梅沢和木(梅ラボ)くんとの2人展「卍エターナル・ポータル卍 輪廻MIX」が初めてで、その時はレンズだけ買って自分で貼り合わせてみたんですけど難しくて、まっすぐ貼れずにモアレが出たんですよ。

大畑 正確に貼ることは大変なのと、レンズピッチにしっかり合わせて印刷するのが難しいので。

たかくら そうなんですよね。ピクセル換算してインクジェットでプリントしたものを貼る方法でした。もちろん動くといえば動くし、モアレの部分が逆に面白かった。このスキルを極めていったら、僕はデジタルアーティストというよりはレンチキュラーアーティストになっちゃうなと思って、それから外注しだしました。2017年にリクルートでの展示「有無ヴェルト」では、1m×1mぐらいのレンチキュラーの作品を作りました。レンチキュラー作品、なかなかいいぞと思っている時期に、サンエムカラーでレンチキュラーを印刷できる、という話を聞きました。レンズを印刷するってどういうこと!?とかなりびっくりしました。

キャンバスに凹凸印刷




作品「EMOJI KAIDO 53 NIHONBASHI」(2021年)

——それから初めて一緒に作った作品はなんですか?

たかくら 初めて一緒に作った作品は2022年のART FAIR TOKYOに出展した、絵文字で東海道五十三次をモチーフにしたシリーズだったような……。その頃、僕はキャンバスを作っていませんでしたが、YODギャラリーさんからキャンバスの作品を売りたいという話をいただいたことがきっかけです。

データで作ったものをプロジェクションしてわざわざキャンバスに肉筆で書いたらアートピースとしてOKだとか、印刷物でも上から絵の具で加筆することでユニークピースとして成立する、というアートワールドのルールに疑問があって、どうしてもその流れには乗りたくなかった。とりあえず絵の具がついてればアートピースとして成立するってのはおかしな話だなと。デジタルで一生懸命に描いていても、デジタルというだけで簡単でお手軽、誰でもできると思われがちなので、そんなことはないぞと。僕はデジタルそのものに価値を持たせたかった。そこでサンエムさんと一緒に凹凸でプリントすれば、キャンバスとしても成立するし、現代のそういったアートピースとデジタルデータをめぐる「決まりごと」にも疑問を投げかけることができるぞ!と思いました。

大畑 凹凸データの作り方はすぐ慣れましたか?

たかくら すぐ慣れました。凹凸データ用のレイヤーが、黒ければ黒いほど盛り上がって、白ければへこむという簡単なルールなので。僕の作品はグラデーションがあるというよりも色がパキッと分かれているので相性が良い。

大畑 うちの部署の社員は日常的に凹凸データを作っているので、データを見て仕上がりが大体わかります。たかくらさんが「ここをこだわっているな」「こういうことしたいんだな」というのがわかるので、データが届いてから社内で盛り上がることがあります。うちで普段アートピースを作る作家さんは、凹凸のデータはほぼお任せなんです。たかくらさんのように作家さんで狙いを考えてデータまで作る作家さんは少ない。

たかくら デジタル上で想像したものが想像通りに刷り上がってくるかが印刷の楽しみな工程です。焼き物が窯から出てきた瞬間に似ています。

僕はサンエムで作る作品を「絵画のプラモ」と呼んでいます。先に全部立体を造形してから、最後に一気に塗装する工程がプラモデルに近いと思っていて。だから、絵画のフォーマットをコピーしたジオラマのような雰囲気の作品になります。

 

モニターの上に印刷


展示『アプデ輪廻 ver4.0 天国・地獄・大地獄』@TOH (代々木) 作品「天国・地獄・大地獄」モニターにUV印刷/NFT付き映像作品



作品「MIROKU PAD」(2022年)

大畑 その前に2021年の冬の個展で、PCモニターとKindleに印刷しましたよね。モニターを破壊しなきゃいけないし、ヤスリをかけなきゃいけないし。楽しかったです。

たかくら そういえばそうですね。「モニターに刷れるじゃん」と思い付いて、最初Kindleにプリントしようとしたら、タッチセンサーのためにシリコンで保護されていて。シリコンにはプリントが乗らないから、一生懸命シリコンを剥がしてみたり。木村さんと電気屋まで行ってフィルムを買いに行ったり。

大畑 それから最終的にフィルムにプリントして貼ってましたね。その時、たかくらさんがモニターの上に絵の具を書く行為をすごくディスっていた。

たかくら ディスというわけじゃないですけど、とりあえず絵の具を付けたらアートになるという美術業界の制度自体を批判しています。要は、絵の具を付けたら価値が付くということは、デジタルに価値がないと言っているのと一緒。デジタルで作ったものが価値として成立するようにしたいので、モニターに刷りたくなったんだと思います。

また、印刷自体も紙にしか刷れなかった時代の感覚のまま、アートピースより劣っているとか量産のためのものだと認知されていて、それがアップデートされてない場合が多い。昔と比べて今の印刷は絵の具より耐久性があったり発色が良いので、そういった感覚を作品で変えることができたらいいなと僕は思っています。なので、基本的には作品のディスではなく制度批判をしています。

 

凹凸データにAIを導入




作品「不動明王VS酒呑童子【大阪】」

たかくら 2022年夏の個展のシリーズです。 この時からAIの生成ツールを素材として使い始めました。背景はAI生成したものを複数コラージュし、その上に自分で加筆して、このシリーズで初めてめっちゃでかい100号の大きさを印刷したんです。

大畑 この頃からAIの筆致が入ったので、凹凸データがまた複雑になった。 

たかくら この時にQRコードも凹凸で印刷していますが、凸凹では読みこめない(笑)。あとからそれに気づいて、最近は平らにしています。僕の作品はNFTとセットになっていていて、それとリンクしたQRコードです。デジタル印刷した作品は原理的には量産可能ですが、NFTによって唯一性を付与しています。

——3Dプリンターとは違った凹凸印刷ならではの利点はありますか?

たかくら それは絵画との接続がしやすいところです。絵画的な筆致やストロークを作れて、解像度を調整できることは僕にとってはありがたい。昔ドット絵の界隈では「他の解像度を混ぜるな」という話がありましたが、僕はあくまで美術の文脈に乗せたい。ドット絵でありながら美術の文脈に乗せるにはやはり絵画的な仕上がりになった方が良い。

大畑 3Dプリンターの事業も行いたいですが、3Dデータは印刷とは別ジャンルなんですよね。3Dプリンターは色再現や解像感がまだ物足りない。それももうすぐ時間の問題で、高性能の3Dプリンターが出てきています。

 

動画が動いているモニターにレンチキュラーを印刷

企画展『アートは魔術/土色豚選抜展その2』(2023年)『HYPER神MIRROR』はそれぞれのモニターにUV立体印刷とレンチキュラー印刷を施し、中の映像作品とセットになった3つの作品である。それぞれが『ハイパー神社』と共通する『jpg』『png』『gif』の3つの拡張子をモチーフとした神が祀られている。それぞれのモニターはデジタルデータを祀る神殿として機能する。

大畑 これは3種の神器の鏡みたいな作品でしたね。

たかくら そうですね。神社がテーマにある編集者の後藤繁雄さんと株式会社ゆめみと共同開発したシリーズ「ハイパー神社」です。jpegやPNGなどの拡張子をキャラクター化してモニターを拝殿に見立てました。

モニターに表示されるピクセルをそれぞれアニメーションさせることで、鑑賞者が左右に動くことなくアニメーションをしていて、鑑賞者が左右に動くとレンチキュラーによりキャラクターが変化していくという作品をつくりました。

これはレンチキュラーをモニターのピッチにピッタリ合わせて作らなければいけない、いわゆる「特注サイズのレンチキュラーレンズ」が必要なので、レンチキュラーレンズを印刷するというサンエムさんのテクニックがあってこそのものだと思います。

大畑さんとお話ししているときに、「レンチキュラーをモニターにやったらどうなっちゃうんだろう!?」って盛り上がったことがあって、それを満を辞して実際にやってみたのがこの作品です。

最初に何度かテストを繰り返していて、僕個人としてはnintendo 3DSの裸眼立体視モニターをイメージしていたので、仕組みとしては多分できるな、と思っていたのですが、実際に印刷してみるとレンチキュラーをモニターのピッチにピッタリ合わせる必要があるので、レンチキュラーを印刷したアクリル板をモニターにずれないように止める方法や、データ作成も動画データ×レンチキュラーのレイヤー数だけ作るので結構複雑だったりしました。

サンエムさん、そしてアクリルをモニターに貼る作業をしてくれたガミテックさんのご協力があってなんとか完成した、という感じです。

そんな感じでハード面はなんとかうまくいったのですが、ソフト面の問題も発生したりして。今まで動画作品に使っていたmp4プレイヤーだと圧縮率が高すぎて、ピクセルがボケてしまうからレンチキュラーがうまく動かなかった。だから、無圧縮のボケないデータを使わないとレンチキュラーが綺麗に動かない。

大畑 圧縮でドットバイドットになってないのかな。

たかくら 無圧縮になると何ギガとか大きなデータを動かすので、今まで使っていたプレイヤーでは動かなかった。展示前日に僕はchromebookを買いに走るというミッションが発生したり。いろいろと大変ではありましたが、この技術はかなり面白いと思っていて、個人的にはとても気に入っています。サンエムさんと一緒に共同で開発した感じもすごく嬉しかった。

映像というのはそもそも縦、横、時間の三次元のメディアなんですが、それにレンチキュラーを足すことで四次元が表現できる。しかもその四次元目というのが3DSみたいなものだったら「奥行き」になるんですが、この作品の場合「レイヤー」なんですよ。同じ位置にレンチキュラーによって別々のものを配置できる。まさにマルチバース的だなと思っています。この技法の作品はまた「満を辞して」再チャレンジしたいなと思っています。

  

https://www.youtube.com/shorts/mHx6tlraPYU

作品「ハイパー神社」(2023年)

UVプリントに箔を貼る

  


個展『メカリアル/MECHAREAL』@山梨県立美術館(美術館内/庭園/メタバース)(2023年)

たかくら この作品は山梨県立美術館での作品です。印刷と箔の組み合わせの作品を作りました。サンエムさんにUVプリントしてもらった後に、サンエムさんの社員さんの修復士に箔を貼る作業もしてもらって。彼の話によると、膠(ニカワ)はUVとの相性が悪くて剥がれるから、樹脂を使って貼ったそうです。玉虫箔という玉虫色に光る、銅を薬品加工した箔です。僕は大学院で日本画を専攻していたので、箔の扱いや種類をある程度知っています。ぴっちり印刷されたドット絵の凹凸と箔のメタリックな感じの相性がすごく気に入っています。

大畑 写真は、箔を張るための作業です。こういう状態で箔を貼ります。箔はノリが乗ってないところを拭けば、ノリの乗ったところだけに箔が付きます。ただUVインキ特有のちょっとした粘度によって、ノリを塗ったところも塗ってないところも、全部箔がついてしまう問題もありました。

——たかくらさんは絵画的な手法を積極的に取り入れていますね。

たかくら そうですね。この作品は、山梨県のシュルレアリストの米倉壽仁さんの詩の内容をAIに入れて出てきた絵をコラージュしました。山梨には道祖神が多いので、道祖神がモチーフになっています。この頃になると、サンエムさんの印刷、箔を貼る人、AI、僕のコラージュや直筆とか、何人もの人の手が入っていて、誰が作ったのかがわからないようになっていますね。この時が要素が1番モリモリかもしれないですね。

——地元の県立美術館だから気合を入れてますね。

 

モニターとキャンバスに印刷して組み合わせる

https://www.youtube.com/shorts/xKGfCgNWu24
作品「EMOJI POT」(2023年)

たかくら 美術館での展示自体が初めてだったので。この後、壺のシリーズを作り始めてから、AIが減ってほとんど手書きになりました。2023年はほとんど壺を書いていますが、これは1番大きいモニターの作品です。周りの淵がキャンバスで、真ん中がモニターで、どっちにもUVプリントしてあるという作品です。みんなモニターの作品を欲しがらないけれど、キャンバスの作品は欲しがるので。

大畑 この時にキャンバスの真ん中にモニターをはめ込むのを初めてしましたよね。これは複雑でした。

 

プラスチックのおもちゃに印刷して組み替える

 

 
作品「100万回生きた壺」(2023年)

たかくら 最新の作品は、レゴを板状にして印刷して、それを組み替えて壺を作りました。組み立てるのが大変でしたが、その後にレゴの壺を割りました。

大畑 割って大丈夫だったんですか?

たかくら バッチリですよ。レゴは耐久性が高いですね。ばらける分、個体には傷がついてない。この作品では、デジタルには可逆性があってフィジカルは不可逆だけど、レゴは可逆性があるということがコンセプトです。要は壊しても戻せるのが、すごくデジタル的だなと思っていて。これは10月26日からのYODギャラリーのグループ展に出展します。

——今までで1番気に入ってる作品はありますか?

たかくら 1番気に入ってる作品ですか。モニターに印刷してる作品は全部気に入っていて、モニターに印刷することは続けたいです。それは僕のメインテーマともいえます。モニターから出ることができなかった存在が、モニターの外側に出ていくことを目指していて。モニターに別のものが付いてるのではなく、デジタルの中にあったはずのものが外側に出ているという表現です。モニターの外部と内側が映像で繋がってるのは、境界線を越えるという表現としていいなと思っています。

あとは、キャンバスにはレンチキュラーがプリントできないので、キャンバスとして成立しつつレンチキュラーとしても成立するものをどう作るかを今後チャレンジしたい。そして、モニターレンチキュラーですよね、これはデータを作るのも作業もとにかくヘビーなものですが、やっぱりマスターピースとして作っていゆきたいなと思っています。何にでも次元を追加できるってレンチキュラーのすごいところです。

大畑 たかくらさんにお伝えしてなかったかもしれませんが、社内のレンチキュラーの技術は日に日に向上していて、アクリルでなくてもレンチキュラーがプリントできるようになりました。もしかしたら板張りした平滑な和紙の上だったら、レンチキュラーができるかもしれません。キャンパスは網目があるので、目の細いキャンバスの上ならやってみる価値はあると思います。

たかくら それは楽しみです。あとはアクリル板をキャンバス型に組むなど、いろいろ方法がある気がします。ただ、レンチキュラーのネックは、絵画的な質感と結構かけ離れていることかなと思っています。レンチキュラーは割と映像やデザインの質感に近い。絵画の質感を残しつつ、レンチキュラーの要素が入った作品が作れたらいいなあと思っています。あとは小さいモニターの作品とかもいいですよね。

大畑 モバイルモニターはできそうですもんね。

たかくら それは良さそうですね。それをキャンパスに埋め込むことはできそう。そういうのを楽しみにしています。

 

アトリエ(制作スタジオ)としてのサンエムカラー

——ありがとうございます。そろそろまとめに入ってもよろしいでしょうか。

たかくら そうですね、すごい面白かった。僕を含めたデジタルの作家にとってサンエムさんには個人にできない技術があるので、アンディ・ウォーホルのファクトリー的なアトリエの要素を持っているということは大きなことです。そういう場に参加させてもらえてるのは嬉しい。アンディ・ウォーホルの時代はアーティストがアトリエを持っていましたが、僕はそういうコストを維持するお金も空間もない。作家が家で作ったものを持ち寄りサンエムさんが現実に展開してくれる。これはとても現代的な関係性だと思います。

大畑 UVプリンターでアートピースをプリントする事業を始めた時に、最初は文化財や日本美術の複製を目的に始めました。個人的にハマったなと思った事例はデジタルアートのフィジカル化です。デジタルデータを物体化する面白さは、UVプリンターのマテリアルを選ばないことや物理的に質感を作れることがあります。たかくらさんとの取り組みの中で気づいたことは多いので、いろいろな作家さんと制作したいですね。

それには個人的な思い入れもあり、昔パソコンで音楽を制作していた時に、デジタルで音楽を作ることに対する外部からの批判だったり、自分で勝手に感じてしまう変な劣等感などの抑圧がありました。ただ、デジタルの作品が人の気持ちを動かす表現としては変わらない。デジタルアーティストの作品をフィジカル化することは、そことどこかで繋がっています。あとは単純に面白さを感じています。

たかくら 僕も同じ気持ちです。アート業界では、デジタルということで楽をしてるんじゃないかという空気感がある。そもそもデジタルの時点でかなり手を動かしてるので、 絵の具を使ってないから書くの楽でしょみたいなのは誤解だと思っています。僕とサンエムさんのやってることは、ただの外注というよりもコミュニケーションを取りながら、新しい作品を作っていると僕は思っている。新しい作品やそれに伴う思想を印刷によって一緒に実現化する作業は、すごく楽しいことです。

 

展覧会情報

たかくらかずき個展「可能性の壺」

会期:2023年11月21日(火)~12月6日(水)

時間:11:00~20:00 ※最終日のみ18時閉場

会場:京都 蔦屋書店 6F アートウォール

主催:京都 蔦屋書店

入場:無料

お問い合わせ:075-606-4525(営業時間内)/kyoto.info@ttclifestyle.co.jp

特集ページ:https://store.tsite.jp/kyoto/event/art/36800-1759191025.html

画家・松村咲希の作品集をサンエムカラーのオンラインショップで販売開始

2023.10.11  作品制作, お知らせ  ,



想像力を刺激する躍動的なペインティング作品

画家・松村咲希さんの2019〜2023年の作品、活動、寄稿がたっぷりとつまった112ページのボリューム、限定400冊のドイツ装の本として完成しました。鮮やかな色彩、立体感、数々のプロジェクトアーカイブをお楽しみください。

松村さんは、最近は福岡や金沢での個展の他に、OIL ART MARKET 2023 DMOARTS、D-art,ART2023 松坂屋名古屋店、アート大阪2023、Art Fair Philippine 2023、ART MARKET TENNOZ 2023、ONE ART TAIPEI 2023などのアートフェアに出展。また作品がドラマに使われるなど、活躍中の作家さんです。


こちらから購入可能です。サンエムカラーのアートブックプロジェクトの一冊になります。
https://www.sunm.co.jp/shopping/458.php

書誌情報

「Saki Matsumura」
112ページ
著者:松村咲希
寄稿:美術評論家・色彩研究 三木学、keshik.jp <http://keshik.jp> ディレクター 黒田純平
寄稿文英訳:イアン・サトル
装丁・デザイン:北原和規(UMMM)
印刷ディレクション:木村 浩(サンエムカラー)
印刷:サンエムカラー
製本:新日本製本
2023年10月6日:第1刷発行
限定400冊

プロフィール

松村咲希
1993年 長野県生まれ
2017年 京都造形芸術大学大学院ペインティング領域修了
現在、京都在住

アクリル絵具を使用して、ペインティング、シルクスクリーン、ステンシルなどの複数の技法を組み合わせ、鮮やかな色彩や凹凸など様々な要素がぶつかり調和しあう、絵画ならではの空間性を持った作品を描く。

https://sakimatsumura.jimdofree.com/

 

 

 

関連展 松村咲希個展「絵肌にシュプール」

現在、個展も会期中ですので、実際の作品を鑑賞されたい方は是非!

個展に合わせたインタビュー動画です。制作風景も収録されています


松村咲希個展「絵肌にシュプール」

会期:2023年10月6日(金)〜 21日(土)12:00〜19:00 
休館日:10月9日(月)、15日(日)
会場:GALLERY SCENA.
https://gallery-scena.com/
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目15-17クレストコート神宮前1F

シュプールとは、スキーで滑った跡のことです。長野県野沢温泉村で生まれ育った松村咲希は、雪山やスキーが身近な存在でした。最近、久しぶりに帰郷した彼女は、自分の作品はこの場所の風景も無意識に表現してるのかも、と至ったそうです。松村咲希の作品は、スピード感があります。画面を走る白いラインが印象的で、確かにシュプール=痕跡が表れています。今回、個展を開催するにあたり、彼女は、改めて自身の作品と自身の人生の軌跡を見つめ直しました。

https://gallery-scena.com/exhibition/matsumura-saki-2023/

「T3 Photo Festival Tokyo」での「Print House Session」に10月8日9日に出展します!

2023.10.3  お知らせ, 作品制作, 業務実績, 展覧会・イベント情報  , , ,

印刷所とデザイナーのコラボレーション

サンエムカラーとデザイナーが一緒に制作した写真集がフォトフェスで販売されます。

2023年10月に東京駅周辺で開催される、屋外型国際フォトフェスティバル「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」。その中で、写真集に特化したブックフェア「Print House Session」が10月8日、9日に行われます。

このブックフェアでは、4つの印刷会社と4人のデザイナーがタッグを組み、写真家・奥山由之さんの冊子をそれぞれ作るプロジェクト「Print House Session」が開催。

奥山由之さんから写真作品「windows」を提供していただき、それを4つのチームが独自の解釈で編集制作し、Photobook JPの開催期間の2日間、作品を限定販売するというプロジェクトです。

制作過程をブログで公開

印刷会社4社をメインに、写真集を同時に制作するという珍しいプロジェクト。サンエムカラーならではの写真集をイベントの開催日までに作ることになりました。

サンエムカラーが主催者に紹介されてチームを組むことになったのは、現代美術関連で活躍中のデザイナー岡﨑真理子さん
Print House Sessionのnoteに、制作過程の記事が公開されていますので、ご覧ください。

印刷会社紹介 サンエムカラー

サンエムカラー×岡﨑真理子

サンエムカラー × 岡﨑真理子 その2

 

完成した写真集「OPTICAL TACTILITY / WINDOWS」


こちらが完成した冊子です。透明な質感のガラスや細かい網戸の質感をプリント。


「OPTICAL TACTILITY / WINDOWS

判型:A4
頁数:32p
綴じ方:中ミシン綴じ
用紙:表紙 G-PET L判 200μ
   本文 SA金藤+ 菊 93.5kg (四六135kg)
印刷方式
本文:デジタルプレス Jet Press 750S
表紙:カサネグラフィカ(UVプリント)
価格:2200円(税込)

奥山由之さんによる窓ガラスを大量に撮影した写真群「windows」を、窓ガラスの質感や、窓ガラス越しに抽象化する室内の見え方を再解釈して制作しました。表紙と本文の異なる冊子が3種類あり、合計限定500部です。
表紙は、作品内の型ガラス、すりガラス、網戸の質感を取り出し、UVプリンタで再現しています。ガラスを再現した質感のある透明な表紙を捲ることで、光沢や像のボケ、モアレなどの変化をお楽しみいただけます。
本文は、ガラスの質感にフォーカスしたレタッチを大胆に施しています。
製本は、銀糸を用いた中綴じミシンで、表紙の硬いペット素材ごと縫って製本しました。



 

デザイナー岡崎真理子さんのコメント

「奥山さんによる「windows」の大量の写真データをいただいて、その中から今回のアートブック用のセレクトをしていく段階で、セレクトから印刷まで何か一貫した方針を持って特定の視点にフォーカスしたものが作れないかと考えました。
「windows」の写真群は、「不透明の窓」という一つの切り口で切り取られていながら、まさに東京の街のような雑多な集合体で、それが魅力の作品でもあると思います。既に発行されている写真集でその魅力は十分に表現されていると思ったので、今回はかなり大胆に偏りのあるセレクトと印刷をして、全く違う側面からこの写真群の魅力を掬い出せないかと考えました。
タイトルの「Optical Tactility」とは光学的触覚というような意味で、目で見ているのに触っているような感覚を得られるようなものを目指しました。ガラスの向こう側の情報量が少なく抽象的に見えるもの、手前が明るくて奥が暗い光環境のもの、ガラスや網戸などが触覚的に特徴のあるものなど、見る人がテクスチャにフォーカスしやすい写真のみを意図的に選び、サンエムカラーさんとの対話の中で、それらの写真を表現するのに最適な印刷方法が決まっていきました。
触覚性を強調するように印刷技術を駆使した表紙は、ガラスや網戸のレイヤーが写真から抜き取られ、文字通り触れる物質として表現されています。一方本文は、サンエムカラーさん独自のチューニングを施されたジェットプレス機を使い、ガラスの凹凸や、反射/透過する光などを強調した、「目で触る」ようなイメージ群になっています。
サンエムカラーさんとお仕事したのはこれが初めてだったのですが、写真の中から特定のテクスチャのみを抜き出す技術や、細やかなレタッチなど、印刷技術のみならずそこに至るまでの画像処理の技術の高さにも感激しました。
とても楽しいセッションでした! 色々な方に手にとっていただきたいです」

サンエムカラー・プリンティングディレクター大畑のコメント

「ガラスや網戸の質感にフォーカスし、赤々舎さまから発刊された写真集『windows』とはまた違った視点の一冊になったと思います。岡崎さんのアイデアとサンエムカラーの技術がピタッとハマった感じになりました。ぜひ手にとって表紙を触ったり、開いたり閉じたりしてみてください」

サンエムカラー・プリンティングコーディネーター寺本のコメント

「奥山さんの写真を岡﨑さんが大胆に解釈し、印刷も弊社で絶賛売り出し中のレアな機械を使って作りあげたzine!! かなり素敵にできあがってきています! ずっとワクワクしながら作りました」



こちらメイキング動画になります。現場の臨場感をお楽しみください。

印刷会社4社と4人のデザイナー

サンエムカラーの他に参加する印刷会社とデザイナーは下記になります。こだわりのある印刷会社と活躍中のデザイナーが制作中した冊子が会場で購入できます。

東京印書館 田中義久

LIVE ART BOOKS  /  上西祐理

山田写真製版所 Aaron Nieh


Print House Sessionの運営は、写真専門の書店flotsam booksと、写真専門の出版レーベルroshin booksが務めま
す。2019年にも開催され、前回のブログはこちらです。

会場への来場が難しい方は、セット販売になりますが、オンラインで購入できます。

今回販売される冊子は、各社ともに一押しの印刷技術を用いて制作しているので、どれも一見の価値ありです。なお、当日の会場ではブックフェアや展示も行われますので、さまざまな写真表現に触れることができます。

写真に興味ある方は会場で手にとっていただけましたら幸いです。

Print House Session開催情報


「T3 Photo Festival Tokyo」

日時:2023年10月8日(日) – 9日(月)11:00-17:00
会場:東京スクエアガーデン 1F 貫通路 
〒104-0031 東京都中央区京橋3-1-1
http://tokyo-sg.com/access/
ウェブサイト:https://t3photo.tokyo/

Print House Session関連展示

今回、Print House Sessionに参加する印刷会社LiveArtが、ギャラリー「LAG(LIVE ART GALLERY)」を2023年9月より神宮前にオープンしました。Print House Sessionとのコラボレーション展「「Print House Session x Yoshiyuki Okuyama x LAG」」を10月13日(金)から開催です。T3に参加できなかった方は、こちらにぜひ。

「Print House Session x Yoshiyuki Okuyama x LAG」

2023年10月13日(金)-11月11日(土)
会場:LAG(LIVE ART GALLERY)/ 〒151-0001 東京都渋谷区神宮前2-4-11 Daiwaビル1F

https://www.live-art-books.jp/lag/exhibition/print-house-session/

Art Direction of Exhibition:上西祐理
ArtBook Collaboration Project:
サンエムカラー x 岡崎真理子
東京印書館 x 田中義久
山田写真製版所 x Aaron Nieh
LIVE ART BOOKS x 上西 祐理

協力:roshin books, flotsam books, サンエムカラー、東京印書館、山田写真製版所

【LAGイベント開催のお知らせ】

奥山由之 x 上西祐理 トークイベント
会場:LAG(LIVE ART GALLERY)
日時:2023年10月21日(土)13:00-予定

定員:限定50名
お申込み方法等の詳細は、追ってWEB/SNSにてお知らせ致します。

https://www.instagram.com/lag_liveartgallery/