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高尾俊介 「Generativemasks」カサネグラフィカ制作

2023.3.25  印刷作品アーカイブ, カサネグラフィカ  , , , , ,

高尾俊介さんの手掛けるジェネラティブアート作品「Generativemasks」、
フィジカル版をカサネグラフィカの技法で制作させて頂きました。

10点制作された「Generativemasks」カサネグラフィカ版は、
2023年3月24日(金) – 5月21日(日)の期間、GYRE GALLERYで開催される、
『超複製技術時代の芸術:
NFTはアートの何を変えるのか?——分有、アウラ、超国家的権力——』 展
に展示されています。
https://gyre-omotesando.com/artandgallery/nft-art/


ジェネラティブアートは、プログラムなどを用いて数学的・機械的・無作為自立過程によってつくられた芸術作品です。Generativemasksもまた、プログラムのコードで制作され、10000点のコレクションはリロードする度に違うカラーリングになります。
https://generativemasks.io/

カサネグラフィカ版のGenerativemasksは、高尾さんにご来社頂き、会社見学とフリーディスカッションをするところから始まりました。これまでカサネグラフィカで制作したアート作品の事例やサンプルをご覧頂き、どういった質感や凹凸感を加えたら良いか検討し、想定されるアイデアを実際の作品でテストを重ねました。

テストを重ねる中、作品のテクスチャーや影の落とし方など、コードに手を加えて頂き、カサネグラフィカ版用に調整がされています。
また、レリーフのような凹凸を加えるにあたって、プリンタのチューニングも新たに構築しました。

 
途中の失敗作。浮き剥がれは、硬化の設定を変えることで解決した。

  
凹凸のステップチャート。右の円が高くなめらかに隆起するようリニアリゼーションから見直した。

また、今回一番のトピックは、凹凸の高さデータもコードで生成されている点です。
カサネグラフィカの凹凸データは、濃い所が高く、薄い所が低いアルファチャンネルで作成されています。
その凹凸データは、カラー画像から画像処理で生成するか、現物の高さデータをスキャニングして
プリントを行います。Generativemasksも当初はカラー画像から凹凸画像を制作する予定でした。

カラー画像から凹凸画像を作成する場合、高さの前後は色情報から作られどうしても狙い通りにはなりません。
ここを、高さ情報専用にコーディングし、そこから生成されたアルファチャンネルを使うことで、
画像の生成順に高さが積層される2.5Dプリントを実現する事ができました。

高さ情報をジェネレーティブしプリントする試みは、確認とってませんが、
前例が無いように思います。わりとさらっとデータが来たので、高尾さんの対応に衝撃を受けました。

https://twitter.com/takawo/status/1630945406829092867?s=20


プリントの方針が定まった後、支持体の検討を行いました。
高級水彩紙をはじめ、様々な候補のうち木彫りのマスクのイメージから、木材へのプリントが決定しました。
木材も様々な木目があり、ツキ板のサンプルからテストを行いました。


ツキ板のテスト。畳の上に置いたらネイチャー感が増しました。どちらもボツです。

最終的に厚みのある木材を選定し、本番のプリントが行われました。

インクを大量に積層し、凹凸を出しています。黒い凹凸だけのもカッコいいです。

  
惜しくもインクが落ちてしまったミスプリント。APとして社内に展示させて頂いています。3Dプリントほどではありませんが、浮世絵の版木のような風合いになりました。

高尾さんより、展示風景の写真提供頂きました。

 

高尾俊介さん




雑記
 オフセット印刷を主業務のサンエムカラーが、4年ほど前にSwissQprintを導入し、「カサネグラフィカ」という技法を名付け様々なアーティストの作品や文化財複製を行ってきました。
 当初あったのは、写真家がアートフェアでペインターに物理的質感で見劣りしてしまう、写真からコンテンポラリー・アートへ進出したいというニーズから、写真家の作風や意向にあわせた表現や質感を開発し、あらたな作家性として作品をつくる事が多かったように思います。
 次のフェーズとして、NFTアートやデジタルアートの作家が、デジタル作品をフィジカル作品を作るケースが増えてると最近感じています。UVプリンターでアート作品を作る行為も定着し、おそらく今後増えて来ると思います。
UVプリンタでアート作品を制作していて感じるのは、何にでもプリントできる、凹凸が加えられるトリッキーな特徴から、簡単に「面白プリント」「技術自慢プリント」になってしまう恐ろしさです。
これはトライアンドエラーの中で、いつもそこからどう脱するかを検討する難しさと面白さがあります。
デジタルプリントをアートとして成立させる難しさは、作家様が一番感じているように思います。
サンエムカラーは、ただ入稿したデータをプリントして終わりでなく、作家様の理想や良い予想外を提供できるよう体制を整えています。UVプリンターでアート作品づくりにご興味ある作家さま、ぜひ一度ご相談頂けると幸いです。

大畑政孝