印刷職人のしごとばTOPICS

カテゴリ:業務実績

「T3 Photo Festival Tokyo」での「Print House Session」に10月8日9日に出展します!

2023.10.3  お知らせ, 展覧会・イベント情報, 業務実績, 作品制作  , , ,

印刷所とデザイナーのコラボレーション

サンエムカラーとデザイナーが一緒に制作した写真集がフォトフェスで販売されます。

2023年10月に東京駅周辺で開催される、屋外型国際フォトフェスティバル「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」。その中で、写真集に特化したブックフェア「Print House Session」が10月8日、9日に行われます。

このブックフェアでは、4つの印刷会社と4人のデザイナーがタッグを組み、写真家・奥山由之さんの冊子をそれぞれ作るプロジェクト「Print House Session」が開催。

奥山由之さんから写真作品「windows」を提供していただき、それを4つのチームが独自の解釈で編集制作し、Photobook JPの開催期間の2日間、作品を限定販売するというプロジェクトです。

制作過程をブログで公開

印刷会社4社をメインに、写真集を同時に制作するという珍しいプロジェクト。サンエムカラーならではの写真集をイベントの開催日までに作ることになりました。

サンエムカラーが主催者に紹介されてチームを組むことになったのは、現代美術関連で活躍中のデザイナー岡﨑真理子さん
Print House Sessionのnoteに、制作過程の記事が公開されていますので、ご覧ください。

印刷会社紹介 サンエムカラー

サンエムカラー×岡﨑真理子

サンエムカラー × 岡﨑真理子 その2

 

完成した写真集「OPTICAL TACTILITY / WINDOWS」


こちらが完成した冊子です。透明な質感のガラスや細かい網戸の質感をプリント。


「OPTICAL TACTILITY / WINDOWS

判型:A4
頁数:32p
綴じ方:中ミシン綴じ
用紙:表紙 G-PET L判 200μ
   本文 SA金藤+ 菊 93.5kg (四六135kg)
印刷方式
本文:デジタルプレス Jet Press 750S
表紙:カサネグラフィカ(UVプリント)
価格:2200円(税込)

奥山由之さんによる窓ガラスを大量に撮影した写真群「windows」を、窓ガラスの質感や、窓ガラス越しに抽象化する室内の見え方を再解釈して制作しました。表紙と本文の異なる冊子が3種類あり、合計限定500部です。
表紙は、作品内の型ガラス、すりガラス、網戸の質感を取り出し、UVプリンタで再現しています。ガラスを再現した質感のある透明な表紙を捲ることで、光沢や像のボケ、モアレなどの変化をお楽しみいただけます。
本文は、ガラスの質感にフォーカスしたレタッチを大胆に施しています。
製本は、銀糸を用いた中綴じミシンで、表紙の硬いペット素材ごと縫って製本しました。



 

デザイナー岡崎真理子さんのコメント

「奥山さんによる「windows」の大量の写真データをいただいて、その中から今回のアートブック用のセレクトをしていく段階で、セレクトから印刷まで何か一貫した方針を持って特定の視点にフォーカスしたものが作れないかと考えました。
「windows」の写真群は、「不透明の窓」という一つの切り口で切り取られていながら、まさに東京の街のような雑多な集合体で、それが魅力の作品でもあると思います。既に発行されている写真集でその魅力は十分に表現されていると思ったので、今回はかなり大胆に偏りのあるセレクトと印刷をして、全く違う側面からこの写真群の魅力を掬い出せないかと考えました。
タイトルの「Optical Tactility」とは光学的触覚というような意味で、目で見ているのに触っているような感覚を得られるようなものを目指しました。ガラスの向こう側の情報量が少なく抽象的に見えるもの、手前が明るくて奥が暗い光環境のもの、ガラスや網戸などが触覚的に特徴のあるものなど、見る人がテクスチャにフォーカスしやすい写真のみを意図的に選び、サンエムカラーさんとの対話の中で、それらの写真を表現するのに最適な印刷方法が決まっていきました。
触覚性を強調するように印刷技術を駆使した表紙は、ガラスや網戸のレイヤーが写真から抜き取られ、文字通り触れる物質として表現されています。一方本文は、サンエムカラーさん独自のチューニングを施されたジェットプレス機を使い、ガラスの凹凸や、反射/透過する光などを強調した、「目で触る」ようなイメージ群になっています。
サンエムカラーさんとお仕事したのはこれが初めてだったのですが、写真の中から特定のテクスチャのみを抜き出す技術や、細やかなレタッチなど、印刷技術のみならずそこに至るまでの画像処理の技術の高さにも感激しました。
とても楽しいセッションでした! 色々な方に手にとっていただきたいです」

サンエムカラー・プリンティングディレクター大畑のコメント

「ガラスや網戸の質感にフォーカスし、赤々舎さまから発刊された写真集『windows』とはまた違った視点の一冊になったと思います。岡崎さんのアイデアとサンエムカラーの技術がピタッとハマった感じになりました。ぜひ手にとって表紙を触ったり、開いたり閉じたりしてみてください」

サンエムカラー・プリンティングコーディネーター寺本のコメント

「奥山さんの写真を岡﨑さんが大胆に解釈し、印刷も弊社で絶賛売り出し中のレアな機械を使って作りあげたzine!! かなり素敵にできあがってきています! ずっとワクワクしながら作りました」



こちらメイキング動画になります。現場の臨場感をお楽しみください。

印刷会社4社と4人のデザイナー

サンエムカラーの他に参加する印刷会社とデザイナーは下記になります。こだわりのある印刷会社と活躍中のデザイナーが制作中した冊子が会場で購入できます。

東京印書館 田中義久

LIVE ART BOOKS  /  上西祐理

山田写真製版所 Aaron Nieh


Print House Sessionの運営は、写真専門の書店flotsam booksと、写真専門の出版レーベルroshin booksが務めま
す。2019年にも開催され、前回のブログはこちらです。

会場への来場が難しい方は、セット販売になりますが、オンラインで購入できます。

今回販売される冊子は、各社ともに一押しの印刷技術を用いて制作しているので、どれも一見の価値ありです。なお、当日の会場ではブックフェアや展示も行われますので、さまざまな写真表現に触れることができます。

写真に興味ある方は会場で手にとっていただけましたら幸いです。

Print House Session開催情報


「T3 Photo Festival Tokyo」

日時:2023年10月8日(日) – 9日(月)11:00-17:00
会場:東京スクエアガーデン 1F 貫通路 
〒104-0031 東京都中央区京橋3-1-1
http://tokyo-sg.com/access/
ウェブサイト:https://t3photo.tokyo/

Print House Session関連展示

今回、Print House Sessionに参加する印刷会社LiveArtが、ギャラリー「LAG(LIVE ART GALLERY)」を2023年9月より神宮前にオープンしました。Print House Sessionとのコラボレーション展「「Print House Session x Yoshiyuki Okuyama x LAG」」を10月13日(金)から開催です。T3に参加できなかった方は、こちらにぜひ。

「Print House Session x Yoshiyuki Okuyama x LAG」

2023年10月13日(金)-11月11日(土)
会場:LAG(LIVE ART GALLERY)/ 〒151-0001 東京都渋谷区神宮前2-4-11 Daiwaビル1F

https://www.live-art-books.jp/lag/exhibition/print-house-session/

Art Direction of Exhibition:上西祐理
ArtBook Collaboration Project:
サンエムカラー x 岡崎真理子
東京印書館 x 田中義久
山田写真製版所 x Aaron Nieh
LIVE ART BOOKS x 上西 祐理

協力:roshin books, flotsam books, サンエムカラー、東京印書館、山田写真製版所

【LAGイベント開催のお知らせ】

奥山由之 x 上西祐理 トークイベント
会場:LAG(LIVE ART GALLERY)
日時:2023年10月21日(土)13:00-予定

定員:限定50名
お申込み方法等の詳細は、追ってWEB/SNSにてお知らせ致します。

https://www.instagram.com/lag_liveartgallery/

第56回造本装幀コンクール 石川直樹『Kangchenjunga』受賞、過去受賞作紹介

2023.6.21  お知らせ, 印刷作品アーカイブ, 受賞関連ニュース!, 業務実績  , , , , , , , ,

第56回造本装幀コンクールで、石川直樹Kangchenjunga』が審査員奨励賞を受賞しました。

サンエムカラーは印刷を担当しました。今回、315点の応募からの入賞となります。関係者のみなさま、おめでとうございます!

写真家の石川直樹さんは、世界各地の辺境から都市までを活動領域に、自身が関心を寄せる人類学や民俗学などの視点を取り入れながら撮影を行います。今回の写真集は、写真を包むような余白の多い造本設計が特徴的な一冊で、新たな読書体験を想起させる装幀となっています。

サンエムカラー担当営業 篠澤のコメント
「『Kangchenjunga』は出版、デザイン、印刷、製本がチームとなって製作する事ができ、とても楽しかったです。製作は一貫して後ろ向きな雰囲気がなく、みんなが面白がって前向きに進んで完成させる事が出来ました。また、このチームで仕事がしたいです」

受賞作の内容

表参道「GYRE GALLERY」で2022年に開催された石川直樹写真展「Dhaulagiri / Kangchenjunga / Manaslu」に合わせ、創刊された写真集。 ヒマラヤ山脈の東、インド・ネパール国境にある難峰で、世界第三位の高さを誇るカンチェンジュンガ。山麓の街であるダージリンから8586mの山頂に至る過程で撮影された写真群から成る、大判の写真集です。 デザインを担当したのは、自身がアーティストとしても活躍しているグラフィックデザイナー、加瀬透氏。本来内側にくるべきノドの部分を外側にし、余白を多く設けることで白銀の世界を表現するなど特異な造本設計が施されています。これまでの石川氏の作品集とはまた異なるラディカルな仕様の一冊となりました。カバーは背面部分に付属する丸タックで留めることが可能。

書籍名 『Kangchenjunga』
著者 石川直樹
アートディレクター 加瀬透
出版社 POST-FAKE
装幀 篠原慶丞
印刷 サンエムカラー
製本 篠原紙工
製作部数 1000部限定
判型 A3ノビ(30cm×40cm)120P
製本様式 平綴じ+2つ折り
用紙の種類 モンテルキア菊判Y目77.5kg、カバー:Kクラフト310g/m2

 


造本装幀コンクールとは?

造本装幀コンクールは、日本書籍出版協会・日本印刷産業連合会が主催する造本装幀にたずさわる人々(出版、印刷、製本、装幀、デザイン)の成果を総合的に評価する出版業界で唯一の賞です。
入賞作品は、ドイツ・ライプツィヒの「世界で最も美しい本コンクール」に日本を代表して出品され、 さらにフランクフルト・ブックフェアで展示されます。国内では、9月22日〜11月に神保町の出版クラブビル「クラブライブラリー」にて「第56回造本装幀コンクール 全出品作品」を公開展示します。その後、入賞作品は、印刷博物館をはじめ国内巡回展示されます。

過去の受賞作の印刷技術を紹介

サンエムカラーは造本装丁コンクールで、今回の受賞を含めると今までに15作品を受賞しています。今回の受賞の記念として、過去の受賞作を紹介させてください。印刷にこだわった部分、協力会社さんと一緒に挑戦した部分をお楽しみいただけましたら幸いです。


FMスクリーン印刷ならではの濃厚な質感


『BIOSOPHIA of BIRDS』
第43回造本装幀コンクール 東京都知事賞(2009年)

東京大学総合研究博物館の東京大学創立130周年記念特別展示「鳥のビオソフィア──山階コレクションへの誘い」展を契機に、写真家上田義彦が世界有数の鳥類コレクションを誇る山階鳥類研究所の鳥類標本を撮った写真集。

この作品はFMスクリーン印刷の飛び抜けた美しさと、高度な製本技術(新日本製本)が審査委員に注目され、受賞が決定したそうです。当社が長年にわたり手懸けてきたFMスクリーンの印刷技術が評価されました。


長時間露光による都市写真



北野謙 『溶游する都市』
第44回造本装幀コンクール 経済産業大臣賞(2010年)

写真家・北野謙が90年代の東京の路上をスローシャッターで撮影したモノクロ写真シリーズ。当時20代の北野は、自己と世界、自己と他者の存在をとらえる視座を模索しながら、三脚を立てスローシャッターによる撮影で目の前の光景をとらえようとしました。

印刷では、スミとグレーの特色などのかけあわせにより、独特な深く淡いモノクロの世界観を描き出しました。デザインはマッチアンドカンパニーの町口覚さん。装幀はもとより、印刷も美しい一冊になっています。


豚革のふっくらした表紙に印刷


ムラタ有子『ムラタ有子作品集』
第45回造本装幀コンクール日本印刷産業連合会会長賞(2011年)

国内外で注目される現代アーティスト、ムラタ有子の作品集。動物や風景をモチーフに、独特な間を生み出す作品が評価され、国内外問わず油彩画、水彩画の展覧会を開催しています。

通常版の表紙は紙ですが、限定版の表紙には豚革が使用され、ふっくらとした手触りの造本。革への印刷は一枚一枚インクジェットで行い、本紙はFMスクリーンを使用した再現性の高い印刷になっています。表紙の種類は3種類あります。


世界初の製本技術でダブル受賞



ミシマ社刊『透明人間 再出発』
第46回造本装幀コンクール 経済産業大臣賞、出版文化産業振興財団賞(ダブル受賞)(2012年)

毎日一詩を書く詩人の谷郁雄さんの31の詩を載せています。また、全詩「透明人間」になったような視点で読むことができる、見ることができるのも特長です。詩が半透明の用紙に、写真が通常の用紙に印刷されています。詩と写真が交互に展開され、それにあわせ一枚一枚用紙も変化していきます。

今回、世界初の製本技術を使用した一冊です。写真の上にろうびきした純白ロール紙を挟み込み、文字の下に写真が透けて見える仕様になっています。この方法は「ENバインディング製法」と呼ばれています。


限界を超えるほどの高濃度で印刷


杉田一弥『杉田一弥活花作品集 香玉』
第48回造本装幀コンクール 日本印刷産業連合会会長賞(2014年)

活花作家である杉田一弥さんの作品集。写真は木村羊一さんが5年にわたって撮り続けたもの。ブックデザインは西岡勉さん。

今回はFMスクリーンを使用し、塗工のない紙に高濃度で印刷を行いました。本文は4色+グロスニス、表紙の帯などはスミ+濃スミ+特アカで印刷していますので、こってりと濃厚な「黒」と、色鮮やかな「花」「花器」の色の対比を楽しんでいただけるような印刷設計になっています。表紙は艶のあるクロス貼り、カバーとの質感の違いも楽しい造本設計。


造本がすべて異なる7冊を同封

大竹伸朗『憶速』特別版
第48回造本装幀コンクール 審査員奨励賞(2014年)

2013年夏に高松市美術館で開催された、「記憶」の「速度」と創作の関係性を軸にした大竹伸朗の展示のカタログです。7セクションからなる展示構成をそのままに、7冊のサイズと造本が異なるカタログとDVD、ポスター、資料集、インスタレーションカタログ、11アイテムがニードル・フェルトの特製ケースに入っています。

図版冊子はすべて最終ページだけ用紙が違います。セクション2〜5は中綴じのため一緒には綴じることができず、前のページに糊でくっつけております。今までやったことがない製本だったため、形の想像がつかず、完成形が見えない中での試行錯誤でした。


ページごとに異なる紙を使用




川島小鳥『おやすみ神たち』
第49回造本装幀コンクール 出版文化産業振興財団賞(2015年)

谷川俊太郎さんの詩27篇と、川島小鳥さんの写真102点を織り交ぜ、目には映らない「タマシヒ」とその来世での行き先を探求した作品です。うららかな日差しの下で撮られた風景はどこか懐かしい雰囲気をかもし出しています。

写真や詩のニュアンスに合わせ、ページごとに異なる風合いの紙が使用されています。中には薄くて裏の詩が映り込むページも。どの紙質も同様に鮮やかな仕上がりになるよう、印刷に工夫がこらされています。本のカバーを取り外してみると、灰色の厚紙仕様の表紙に銀色の箔押し文字で本文にはない詩が書かれています。


シルクスクリーン作品を高輝度インキで再現

安西水丸『ON THE TABLE』
第51回造本装幀コンクール 日本書籍出版協会理事長賞(2017年)

2014年に急逝したイラストレーターの安西水丸さん。アトリエに残された作品を整理するなかで、新たに見つかったのが個展のためだけに制作されたシルクスクリーンの作品です。

安西さんによるシルクスクリーン作品30点を集録した本作は、美しいものを見る素朴な喜びを喚起させます。シルクスクリーン独特の鮮やかな発色を高輝度インキで再現しました。裏表紙には白い箔で押された安西さんのサインが本書そのものの作品としての存在感を静かに語ります。


コデックス製本に藍染め作品を使用




福本潮子『藍の青』
第50回造本装幀コンクール 出版文化国際交流会賞(2016年)

日本人の色彩観・美意識の象徴の一つである藍染の世界を探求し、第一線で活躍を続ける福本潮子さん。本書は1977年から2015年の最新作に至るまで、約40年間に渡る仕事の軌跡を辿る集大成の作品集です。

コデックス製本の背表紙には福本さんご自身の作品「青の儀式」を裏打ち・断裁して使用しており、作品集そのものがひとつの作品として存在感を放ちます。今回の作品集には「藍色」の美しい印刷表現が求められ、念入りな校正や印刷立会を重ねて皆さまのお手元に届けられていています。


徐々に変化するテキストの色


池内晶子『Akiko Ikeuchi』
第52回造本装幀コンクール 最優秀賞文部科学大臣賞(2018年)

広い空間に絹糸を張り巡らせる方法で、インスタレーションの作品を生み出される池内さんは個展の開催を続けてこられました。展覧会に併せて、1994年から2015年にかけての個展の記録を一冊の図録として刊行しました。

厚いボール紙の表紙に、書籍中に織り交ぜられた材質の異なる紙。洗練されたデザインが中の作品の世界をぐっと引き立てます。冒頭から巻末にかけて、作品写真の合間に配されたテキストページの文字は、ぱっと見てはわからないほどの差で、銀色から銅色へと少しずつ変色していきます。


「紙象嵌」(かみぞうがん)加工が施されたボックス



ロート製薬『THE LOVING INSTRUCTION MANUAL』
第52回 造本装幀コンクール 審査員奨励賞 (2018年)

このブックレットは、妊活に向き合う上で生じやすい夫婦間のギャップを埋めるためのツールであり、男性と女性で異なるココロとカラダの仕組みや一ヶ月間のリズム、妊娠する上で必要な知識などパートナーに理解しておいて欲しいことをまとめています。

優しいタッチのドローイングと文章が隣り合った手の平におさまるこのシンプルな本。ボックスの外観の文字は、通常のエンボス加工ではなく、ベースの紙の上に種類の異なる紙を嵌(は)め込む「紙象嵌」という加工が施されています。


小口四面すべてに天金加工



今城純『forward』
第54回造本装幀コンクール 東京都知事賞(2021年)

写真家の今城純さんが5年の歳月をかけてフランス各地のメリーゴーランドを撮り溜めた写真集。普段写真集を買わないような人でも飾っておきたくなる雑貨のような魅力を持った本を目指し、判型は気軽に手に取れるような小さめのサイズ。

装幀のポイントであるドイツ装の小口四面全てに施された天金加工は、メリーゴーランドの装飾や色の印象を写真集に象徴的に落とし込んでいます。写真集では珍しく上から蓋をかぶせるタイプの箱に収められています。


一冊の中にさまざまな紙が混在



『Arts and Media / volume 10』
第54回造本装幀コンクール 産業大臣賞(2021年)

大阪大学文学研究科アート・メディア論研究室が発行する『Arts and Media』は、アートとメディアの原始の関係に改めて注目し、芸術をもう一度、情報伝達の手段として見てみたい、そんな熱望から生まれた雑誌。

この本は、一冊の中に様々な紙の種類が混在し、文字の色もページごとに違います。複数の用紙を使用して、用紙ごとに本文の寸法が違う並製本。 本文はすべて、1枚ずつ丁合をとり、製本後に仕上げ断裁はしない仕様。


木の板を彷彿させるコデックス装



『天童木工とジャパニーズモダン』
第55回造本装幀コンクール 日本製紙連合会賞(2022年)

デザイン史に残る数々の名作家具を世に送り出してきた、日本を代表する家具メーカー天童木工、80年の歩みをまとめた一冊。

木目を意識した本のデザインが非常に楽しく、コデックス装も相まって分厚い合板のような雰囲気も感じられます。複数の色の紙を使用しながらも全体の印刷の色の雰囲気をまとめる必要があり、サンエムカラーとしても工夫をしながら印刷しました。


お問い合わせはお気軽に!

サンエムカラーでは、デザイナー、編集者、製本会社など協力会社さんと一緒に培ってきた経験と実績をもとに、これからもより良い造本装丁を続けていきます。新しい方々からのご依頼もお待ちしておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

写真家・横山隆平、彫刻家・長谷川寛示、作品制作のために来社

2023.5.22  展覧会・イベント情報, 立会いにいらっしゃいました!, 業務実績, 作品制作, カサネグラフィカ  , , , , , ,


アーティスト2名による印刷立ち合いのレポート

サンエムカラーでは、美術館やギャラリーで展示をするアーティストが来社して、作品制作を行うことがあります。今回はアーティストとコミュニケーションを取りながら、紙以外のさまざまなメディアにプリントを行い、作品が完成していく過程をお届けします。サンエムカラーのスタッフは美術関連の印刷を日々行っているので、そこで培ったスキルを発揮する腕の見せ所です。

 

先日、写真家の横山隆平さん彫刻家の長谷川寛示さんが、それぞれの個展に向けた作品制作のため、共にサンエムカラーの京都本社に来社しました。

横山さん、長谷川さんは京都市京セラ美術館で現在開催中の「特別展 跳躍するつくり手たち」で、それぞれの作品を展示するだけでなく、共作も展示しています。また、お二人ともサンエムカラーの印刷技法「カサネグラフィカ」を使って作品を制作することから、今回揃っての制作立ち会いが行われました。今回使われる技法のカサネグラフィカは、メディアにインクを何層も「重ね」て塗ることで、独特の質感を作品にもたらします。

一日がかりの作品制作は、横山さんからスタートしました。

 


横山隆平「WALL cutout / BLIK #01#02」制作風景

横山さんは、サンエムカラーが大判のUVプリンタ「スイスQプリント」を使ったカサネグラフィカの技法を始める前から、これまでに多くの作品のプリントを行ってきました。

今回の横山さんの新作「BLIK」は、鉄板に木枠を取り付けたメディアに、顔料箔やスプレーを施し、その上にカサネグラフィカでプリントを行いました。

今までにいくつもの作品をカサネグラフィカで制作してきた横山さんは、プリントの特性を熟知しており、データづくりから出力方法まで十分に心得ています。プリントするデータの処理も、これまでの経験から横山さん専用にチューニングされたICCプロファイルで変換して、数回のテストプリントを経て本番を行いました。

横山隆平「WALL cutout / BLIK #01#02」完成。

 


横山隆平「WIND [No. 05 May 6, 2023]」制作風景

もうひとつの作品「WIND」は、アルミボードにハーネミューレ紙を貼ったメディアに、顔料箔とスプレーを施してから、プリントを行いました。

このプリント方法は過去にも行っていて、今回は過去の作品と同じ風合いになるように調整してからプリントをしました。

プリントは焼き込みのような方法をとっていて、数回の塗り重ねで意図した仕上がりになるように調整しています。

今回のメディアとなるアルミと顔料箔、スプレーの上へのプリントは、インクの乗り方が異なります。仕上がりを確認しながら、横山さんの望んでいる調子の部分を塗り重ねていきます。

写真制作の基礎である暗室でのプリント現像の焼き込み、シルクスクリーンの追い刷り、そういった手仕事のようなことをデジタルを介して行なう作業は、毎回面白いなと感じています。

横山隆平「WIND [No. 05 May 6, 2023]」完成。

 


長谷川寛示「bottle to bottle」制作風景

以前、長谷川さんは木彫りの植物の葉の上に、テキストをプリントする彫刻作品を制作しました。今回は彫刻作品ではなく、本銀箔とカラーを施した木枠にモノクロのプリントを行います。

仕上がりのイメージの確認のため、まずフィルムにプリントをして、それを木枠に重ねて確認を行いました。モノクロ作品を二階調にした作品は、画像処理やRIPの工程で余計な色分解をしないよう、また風合いが変わらないように処理を施しました。

何度かのトライアンドエラーのなかで生まれたアイデアにより、わざと二階調の生成を荒らす処理を試み、味わいや色気の良さからその方法で最終的に決定をしました。

作家とのディスカッションによって、長谷川さんの作品がブラッシュアップされる瞬間は、この場でなければ起こりえないので、作品の生み出される面白みを感じました。

 

プリントしてみないとわからない

プリントの方針が決まり、テストピースのプリントを行いました。

フィルムの上にに乗せるのと、実際にプリントするのでは、風合いが変わることが予想されるので、まずは本番前に小さいテストピースを制作します。テストピースへのプリントは、フィルムよりも軽い仕上がりになるので、その変化量を逆算してから本番を行いました。

 

引き算の設計

一般のインクジェットプリンタは、モノクロデータでプリントするとカラーインクを含んだ分色を強制的に行います。カサネグラフィカでは、モノクロ作品の場合、黒インクのみや墨基調の分版のような印刷の製版に近い処理を行います。どちらにも長所と短所があります。

当初は黒インクの上にニスを乗せる予定でしたが、銀箔と黒インクの馴染みが良く、ニスを加えると質感に差を与えすぎるという判断から、黒インクを乗せるだけの設計になりました。

この引き算の判断は、工程や手数を増やして付加価値を付けるという発想でなく、良い作品をつくるための思い切った判断で個人的にグッときました。

長谷川寛示「bottle to bottle」完成。

完成した作品は梱包を施した後に、個展が行われる東京のギャラリーへと旅立って行きました。京都、東京の会場で、横山さん、長谷川さんの実際の作品をご高覧ください。

 

サンエムカラーでは、アーティストが構想する作品を具体化するために、印刷技術や作品の方向性を意見交換をしながら、作品制作の協力を行っています。連絡いただけましたら、より良い作品を世に出すためのお手伝いをさせてください。

 


展覧会情報

横山隆平「CITY from the WIND / Carpe diem」
KANA KAWANISHI GALLERY(東京)
2023年6月3日〜7月1日
https://www.kanakawanishi.com/gallery

長谷川寛示「decey,remains」
KANA KAWANISHI GALLERY(東京)
2023年5月27日〜6月24日
https://www.kanakawanishi.com/exhibition-041-kanji-hasegawa

「特別展 跳躍するつくり手たち」
京都市京セラ美術館(京都)
2023年3月9日〜6月4日
https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20230309-20230604
横山さん、長谷川さんそれぞれの作品と共作が展示中。

高尾俊介 「Generativemasks」カサネグラフィカ制作

2023.3.25  印刷作品アーカイブ, カサネグラフィカ  , , , , ,

高尾俊介さんの手掛けるジェネラティブアート作品「Generativemasks」、
フィジカル版をカサネグラフィカの技法で制作させて頂きました。

10点制作された「Generativemasks」カサネグラフィカ版は、
2023年3月24日(金) – 5月21日(日)の期間、GYRE GALLERYで開催される、
『超複製技術時代の芸術:
NFTはアートの何を変えるのか?——分有、アウラ、超国家的権力——』 展
に展示されています。
https://gyre-omotesando.com/artandgallery/nft-art/


ジェネラティブアートは、プログラムなどを用いて数学的・機械的・無作為自立過程によってつくられた芸術作品です。Generativemasksもまた、プログラムのコードで制作され、10000点のコレクションはリロードする度に違うカラーリングになります。
https://generativemasks.io/

カサネグラフィカ版のGenerativemasksは、高尾さんにご来社頂き、会社見学とフリーディスカッションをするところから始まりました。これまでカサネグラフィカで制作したアート作品の事例やサンプルをご覧頂き、どういった質感や凹凸感を加えたら良いか検討し、想定されるアイデアを実際の作品でテストを重ねました。

テストを重ねる中、作品のテクスチャーや影の落とし方など、コードに手を加えて頂き、カサネグラフィカ版用に調整がされています。
また、レリーフのような凹凸を加えるにあたって、プリンタのチューニングも新たに構築しました。

 
途中の失敗作。浮き剥がれは、硬化の設定を変えることで解決した。

  
凹凸のステップチャート。右の円が高くなめらかに隆起するようリニアリゼーションから見直した。

また、今回一番のトピックは、凹凸の高さデータもコードで生成されている点です。
カサネグラフィカの凹凸データは、濃い所が高く、薄い所が低いアルファチャンネルで作成されています。
その凹凸データは、カラー画像から画像処理で生成するか、現物の高さデータをスキャニングして
プリントを行います。Generativemasksも当初はカラー画像から凹凸画像を制作する予定でした。

カラー画像から凹凸画像を作成する場合、高さの前後は色情報から作られどうしても狙い通りにはなりません。
ここを、高さ情報専用にコーディングし、そこから生成されたアルファチャンネルを使うことで、
画像の生成順に高さが積層される2.5Dプリントを実現する事ができました。

高さ情報をジェネレーティブしプリントする試みは、確認とってませんが、
前例が無いように思います。わりとさらっとデータが来たので、高尾さんの対応に衝撃を受けました。

https://twitter.com/takawo/status/1630945406829092867?s=20


プリントの方針が定まった後、支持体の検討を行いました。
高級水彩紙をはじめ、様々な候補のうち木彫りのマスクのイメージから、木材へのプリントが決定しました。
木材も様々な木目があり、ツキ板のサンプルからテストを行いました。


ツキ板のテスト。畳の上に置いたらネイチャー感が増しました。どちらもボツです。

最終的に厚みのある木材を選定し、本番のプリントが行われました。

インクを大量に積層し、凹凸を出しています。黒い凹凸だけのもカッコいいです。

  
惜しくもインクが落ちてしまったミスプリント。APとして社内に展示させて頂いています。3Dプリントほどではありませんが、浮世絵の版木のような風合いになりました。

高尾さんより、展示風景の写真提供頂きました。

 

高尾俊介さん




雑記
 オフセット印刷を主業務のサンエムカラーが、4年ほど前にSwissQprintを導入し、「カサネグラフィカ」という技法を名付け様々なアーティストの作品や文化財複製を行ってきました。
 当初あったのは、写真家がアートフェアでペインターに物理的質感で見劣りしてしまう、写真からコンテンポラリー・アートへ進出したいというニーズから、写真家の作風や意向にあわせた表現や質感を開発し、あらたな作家性として作品をつくる事が多かったように思います。
 次のフェーズとして、NFTアートやデジタルアートの作家が、デジタル作品をフィジカル作品を作るケースが増えてると最近感じています。UVプリンターでアート作品を作る行為も定着し、おそらく今後増えて来ると思います。
UVプリンタでアート作品を制作していて感じるのは、何にでもプリントできる、凹凸が加えられるトリッキーな特徴から、簡単に「面白プリント」「技術自慢プリント」になってしまう恐ろしさです。
これはトライアンドエラーの中で、いつもそこからどう脱するかを検討する難しさと面白さがあります。
デジタルプリントをアートとして成立させる難しさは、作家様が一番感じているように思います。
サンエムカラーは、ただ入稿したデータをプリントして終わりでなく、作家様の理想や良い予想外を提供できるよう体制を整えています。UVプリンターでアート作品づくりにご興味ある作家さま、ぜひ一度ご相談頂けると幸いです。

大畑政孝

大橋翠石筆「蹲虎之図」複製

2021.12.4  印刷作品アーカイブ, 文化財, お知らせ 

インペリアル・エンタープライズ株式会社様からのご依頼で、大橋翠石筆「蹲虎之図」複製の本紙印刷をサンエムカラーが担当しました。監修・解説は美術史家の村田隆志先生です。

今回複製画を製作させていただいた「蹲虎之図」は、明治天皇に献上された渾身の大作の貴重な大下図です。大下図とはいえ、本画同様の精緻な描き込みがされており、圧倒されるような迫力があります。

複製画の製作は、サンエムカラーの高解像度スキャナで原本をスキャンする工程から始まります。

原本と照合し、何度も画像処理をおこなって、原本と同じ和紙に印刷することで、原本の雰囲気を再現しています。

今回製作させていただいた複製画は、インペリアル・エンタープライズ株式会社様にて販売されています。
掛軸に仕立てたものと、飾り額に額装されたものからお選びいただけます。
限定500点の販売となりますので、令和初の寅年となる2022年の床飾りにいかがでしょうか。