印刷職人のしごとばTOPICS

カテゴリ:1冊の写真集が完成するまで

1冊の写真集が完成するまで 番外編

2017.11.16  1冊の写真集が完成するまで 

サンエムカラーが、作家の方と協力して
新しい写真集を作り上げるまでの様子をリアルタイムで
お届けするシリーズ「1冊の写真集が完成するまで」。

おかげさまで、第7回目の連載にて、無事に照井壮平さんの写真集『狼煙』の完成を
お伝えすることができました。

(過去の記事はコチラからお読みいただけます。)

 

先日、『狼煙』を出版された道音舎の北浦さんが、
写真集の出版を記念して開設されたブログ「道と本」にて、
『狼煙』のディレクションを担当いたしました営業部・前川への
インタビュー記事をあげてくださいました。
『狼煙』のこだわりポイントや、サンエムカラーとして今の時代に
アートブックを作ることに対する思いを語っています。
普段お伝えすることのない、お客様の熱い思いを直接受け止め、
形にするために日々奔走する営業の生の声を引き出していただきました。

『狼煙』の制作は、作家、出版社、印刷会社と様々な視点から
本のできる流れを見る貴重な機会となりました。
その完成後に始められた「道と本」では、書店に本が並んでいく喜びや
展覧会の様子などをまとめられています。

1冊の写真集が完成した後も、それがみなさまの手に渡っていく感触、本によって
ますます広がっていく作家さんの可能性を感じるのは、印刷を手がけた会社として
とても嬉しいことです。

 

道音舎様「道と本」、ぜひのぞいてみてください。

 

1冊の写真集が完成するまで⑦

2017.10.5  1冊の写真集が完成するまで 

サンエムカラーが、作家の方と協力して
新しい写真集を作り上げるまでの様子をリアルタイムで
お届けするシリーズ「1冊の写真集が完成するまで」。

 

第7回目の更新です。ついに写真集の完成をお伝えします。

 


 

第6回でお伝えした製本工程から、約一週間後。

サンエムカラーに、出来上がった写真集が届きました。

 

 

照井壮平さんの写真集「狼煙」、完成です。

 

 

表紙を開いたところから、照井さんの世界、
和歌山の自然が残る熊野・高野山、照井さんにとっての
「怪しく荒ぶる映像記憶」に引き込まれます。

 


背に施された濃いグレーのシルク印刷により、和歌山の夜の
世界が分断されることなく広がっています。

1ページ目を開いた時に切り取られて見える裏表紙と
コデックス装の背がとてもクールです。

 

背と同じく東美企画さんで印刷していただいたタイトルの白インキも、
取材時同様にエッジの効いたものになりました。

 

ダブルトーン(黒インキ+グレーの印刷)による
深いモノトーンで表現された写真からは、ワイルドで
怪しい空気がにじんでいます。

 

写真と同じく、静かながら力強い文章が、
熊野・高野山への想い、その姿を撮影することに
費やされるエネルギーの大きさを、見る人に
余すところなく感じさせるようです。

 

月が沈んで、和歌山の夜が終わります。
夢から覚めたような気分が残ります。

 

作品、デザイン、印刷、製本の全てが合わさって
ひとつのストーリーを完成させたということを
強く感じる仕上がりとなりました。

 

 

 

 

シリーズでお伝えしてきた、「一冊の写真集が完成するまで」。いかがでしたでしょうか。

初めての写真集を作りたい!そんな思いを持った
一人でも多くの方が、その第一歩を踏み出すきっかけになれば、
という気持ちでここまでお届けしてまいりました。

印刷会社だけでは写真集は作れません。
お伝えしてきたような製本会社を初めとした
多くの職人さんたちの力もさることながら、
全てはお客様からの「こんな本が作りたい」
という気持ちから始まります。

このシリーズで、写真集ができる工程を
お伝えするとともに、サンエムカラーには
作家さんの実現したい形・ご提案に対して
様々な形でお答えできるご用意があるということを
知っていただけたなら幸いです。

また、写真集・作品集を作る予定のない方も、
本棚にある1冊の本の後ろには、たくさんの
人の思いが隠れていることを頭の片隅に置いて
いただければ、本を眺めるワクワクがほんの少し
増えるかもしれません。

 

今回、このような形で取材にご協力いただいた
照井さん、硲さん、北浦さんには、心よりお礼を申し上げます。

写真集「狼煙」は、10/6(金)より東京で
開催されますTHE TOKYO ART BOOK FAIR 2017にて
販売される予定です。お近くの方、参加される予定の方は
ぜひ、実物をお手に取ってご覧ください。

また、「狼煙」の発刊に合わせて、道音舎様が
新たにブログ「道と本」を開設されています。
デザイナーの硲さんが、印刷や製本の仕様について
書いてくださっています。
写真集に関わるいろんな人から見た制作工程
をお届けできるのも、今回の企画の魅力ですので、
是非、併せてお読みください。

 

「一冊の写真集が完成するまで」は、これにて終了です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

◯「1冊の写真集が完成するまで」番外編はコチラから◯

 

________________________________

著者:照井壮平
発行:道音舎
デザイン:硲勇(ハザマデザイン事務所)
仕様:224×232・上製本(コデックス装)・112頁
定価:6400円+税

________________________________

1冊の写真集が完成するまで⑥

2017.9.29  1冊の写真集が完成するまで 

サンエムカラーが、作家の方と協力して
新しい写真集を作り上げるまでの様子をリアルタイムで
お届けするシリーズ「1冊の写真集が完成するまで」。

第6回は、前回に続いて、サンエムカラーの
外からお伝えしたいと思います。

 


 

第5回目の更新でお伝えした東美企画さんにて
表紙を印刷していただいている間に、
別の場所では本文の製本が並行して進められています。
(印刷立会い・東美企画さんへの見学の様子を、
北浦さんがブログ「みちとおと取材記」にまとめてくださっています。
ぜひ、併せてお読みください。)

今日は、その製本が行われている製本会社・新日本製本さんにお邪魔しようと思います。

サンエムカラーでは、多くの町工場の
職人さんたちの協力を得て書籍を作っています。
今回の写真集「狼煙」に使われる予定の
コデックス製本という形態は、製本の中では
比較的特殊なものです。
コデックスのような特殊な加工や製本に使われる設備を
持っている会社は限られており、製本で言うと
サンエムカラーでは、特殊な製本は
新日本製本さんにお願いすることが多いです。
特に、コデックス装に関しては、すべて
新日本製本さんに製本していただいています。

さっそく、製本の様子を見せていただきたいと思います。

 

工場の2階に上がると、隅の機械の横に
「狼煙」の丁合が済んだ本文が積まれていました。

今日見せていただくこの機械は、バラバラの本文を糸で
綴ってまとめる機械です。
コデックス製本だけではなく、上製本と呼ばれる製本の本はすべて
本文を糸で綴ります。
綴ったあと、本文の背を表紙で包んでしまうのが上製本、
包まずに外から見える状態で置いておくのがコデックス製本、という違いになります。

 


▲機械上部に、綴るのに使う糸が準備されています。
「狼煙」は照井さんたちとの検討の結果、グレーの糸で綴ることが決まっています。

 


▲糸巻きから糸を引っ張り、引っ掛けます。

 

機械の、糸がある部分から見て反対の端には本文がセットされています。


▲白い箱のような部分が本文の束です。

ここから紙が流れて行き…

糸で綴じられていきます。

少し見えにくいですが、反対側から見ると、

綴じられた本文が出てきました。

 


▲薄く何本も走って見える線が、糸で綴られている部分です。


▲開いて見ると、グレーの糸が見えます。

 

もうこれで本として完成に見えますが、この段階では
周りにまだ断裁すべき余白が残っているので、最後に
完成のサイズまで断ち落としてようやく本の形になります。

 

本日見せていただく工程は、ここまでです。

この後さらに、本文の背を糊で固めたあと
上製本の表紙にくっつける作業が残っています。

左が束見本、右が今日綴った本文です。
本文はこれから糊で固められ、束見本と同じ厚みになります。
糊で固める工程も新日本製本さんのお世話になります。

 


 

製本まで来たらもう安心、と言いたいところですが、
背へのシルク印刷や表紙付けなど、あとひとふんばり必要です。

とはいえ、完成をお伝えできる日ももうすぐそこですので、
どうか最後までお付き合いください。

新日本製本さん、今日はありがとうございました。
この後もよろしくお願いします。

 

照井壮平さんの写真集「狼煙」特設HPはこちらです。
ぜひチェックしてください。

 

「1冊の写真集が完成するまで」、次の更新をお楽しみに。

 

 

◯「1冊の写真集が完成するまで ⑦」はコチラから◯

 

 

1冊の写真集が完成するまで⑤

2017.9.27  1冊の写真集が完成するまで 

サンエムカラーが、作家の方と協力して
新しい写真集を作り上げるまでの様子をリアルタイムで
お届けするシリーズ「1冊の写真集が完成するまで」。

5回目の今回は、サンエムカラーを離れて、
シルクスクリーン印刷会社からお伝えします。

 


 

今日向かうのは、シルクスクリーン印刷を
専門に手がける、東美企画さんです。

サンエムカラーでは、長年培ってきた知識と、
幅広い加工先様とのつながりを大切にし、
お客様のご要望に高いレベルでお応えできる
印刷・加工を提案いたしております。
東美企画さんは、そんな心強い協力会社の一つです。

弊社からは少し離れていますので、車で向かいます。
北浦さんと硲さんも一緒に来ていただきます。

20分ほど走った頃、商店街を一筋外れた細い道の先に
東美企画さんが見えてきました。

中に入ると、代表の神代大輔さんが出迎えてくださいました。


▲東美企画さんの印刷室です。

壁の棚にはインキ缶やシルクスクリーンの版がぎっしりです。
まさに職人の作業場という感じで、ワクワクします。

これが、シルクスクリーンの印刷機です。
銀色の枠に囲われた部分が、版です。

今日見せていただくのは、写真集のタイトル部分の印刷です。
黒い紙の上に真っ白のインキで刷ります。

早速、刷る所を見せていただきます。


▲ヘラでインキを扱うのはオフセットのインキと一緒です。


▲版の上に練ったインキを乗せます。


▲ボタンを押すと、版の上をスキージ(青い部分)が動いて
インキを伸ばします。

シルクスクリーンの版は、刷りたい形に穴を作るように
製版されており、その穴の上からスキージでインキを
紙の上に押し出す形で印刷します。

 

あっという間に1枚目が刷れました。

 

左が今シルクで刷られたもの、右が弊社のオフセット機で印刷したものです。
シルクスクリーンで刷られた方がハッキリと白が乗っているのが分かります。

神代さんに伺うと、探索の末にこのカバー力の
白インキを見つけてくださったとのこと。
本当に頼りになります。

また、先ほども書いたように、シルクスクリーンは版の穴を通して
インキを紙に乗せる印刷技法ですので、その穴が細かすぎると
すぐにインキが詰まってしまいます。
文字などは、線の太さによっては
お客様のデータに最も近い形で製版に適した状態に
調整してくださるのも、東美企画さんの経験と技術です。

次々ときれいな白が刷られていく様子は
気持ちがいいものです。

しばらく見学させていただいた後、仕上がりを
北浦さんと硲さんに確認していただきましたので、
今日はこれで失礼します。

今回は表紙の他に、本文の背のシルク印刷でも
引き続き東美企画さんのお世話になります。

東美企画さん、神代さん、ありがとうございました。
この先もよろしくお願いいたします。

 


 

現在は弊社での印刷も終わり、次のステップである製本や
特殊印刷など、信頼している職人さんたちと協力して
作業を進める段階に入っています。

次回もサンエムカラーを出て、今度は製本会社より
製本の様子をお伝えする予定です。

 

照井壮平さんの写真集「狼煙」特設HPはこちらです。
ぜひチェックしてください。

 

 

「1冊の写真集が完成するまで」、次回の更新をお楽しみに!

 

◯「1冊の写真集が完成するまで ⑥」はコチラから◯

 

 

1冊の写真集が完成するまで④

2017.9.20  1冊の写真集が完成するまで 

サンエムカラーが、作家の方と協力して
新しい写真集を作り上げるまでの様子をリアルタイムで
お届けするシリーズ「1冊の写真集が完成するまで」。

今回は、いよいよお客様に写真集本文の
印刷に立ち会っていただく様子をお伝えします。

 


 

前回の記事でお伝えした打ち合わせから4日後。
北浦さん・照井さん・硲さんに、本社から少し離れた
印刷工場へお越しいただきました。


▲工場の2階です。ここで装丁などの打ち合わせもしつつの立会いとなりました。

 

ほどなくして、1階で立会いが始まりました。

今日使われるのは、前回の打ち合わせでいただいた
指示を元に修正を加えたデータから作った刷版です。
修正指示が書かれた校正と見比べ、
思い通りの修正がされているかチェックしていただきます。
(北浦さんが前回の色修正の様子をブログ「みちとおと取材記」に
書いてくださっています。ぜひ、併せてお読みください。)

 

印刷立会いの流れは、
「1台ごとのお客様によるチェック→印刷」の繰り返しです。
精密な印刷を実現するためには
インキの色だけでなく、紙を伸縮させる温度・湿度など、
様々な環境の条件まで考慮しなければなりません。
印刷機の設定も台ごとに変わります。
そのため、1つの台をチェックしていただき、
OKが出ると、その時点の環境が変わらないうちに
1台分だけを刷り切ります。
チェックだけ先に済ませてから全体を一気に印刷する、というわけにはいかないのです。

しばらくチェックをいただき、相談もされた後、
まず1台目には無事にOKがいただけました。


▲OKの証には、お客様直筆のサインを刷り取りに書き込んでいただきます。

1台目の本刷り、スタートです。

 

一つの台が刷りあがるには少し時間がかかるので、
合間を見て2階に上がり、装丁などの確認をします。

書籍の完成のイメージを固めていくのに、校正や
見本の他に使うのが、製本見本である
束見本(つかみほん)です。


▲これが今回の写真集「狼煙」の束見本です。
しっかりと製本されていますが、あくまで製本見本なので
表紙には何も刷られていません。

連載第1回でも書いていたのですが、製本は
コデックス製本を上製本の表紙に貼り合わせるという形態を
使うことになっています。


▲コデックス製本の本文の背です。
背が表紙から離れており、糸で綴って糊で固めた部分が
外に出ています。


▲この背の作りのおかげで、本を手で押さえなくても
綺麗に180度開くのが、コデックス製本の最大の特徴です。
本のノドまで全部見えるので、見開き2ページに渡った
画像がある写真集などに適した製本です。

今日はこの束見本を使って、製本時の見え方の確認をします。
ここで問題になったのは、糸の色でした。

写真からもわかるように、ノドが大きく開くので
綴っている糸まで全部見えます。
上の写真のように、ページによっては画像の中に
黒い糸が走ることになります。
糸は本文の背からも見えるので、色を慎重に
決めなければなりません。

「ここの写真は糸があっても良さそうだけど、
こっちは構図的にもまずいかも」

糸の存在感が特に重要になるページに合わせて、
製本方法の見直しや、レイアウトの変更まで考慮に入れつつ、糸の色を考えます。

黒糸・白糸・グレーの糸が選択肢に上がり、
後ほど糸のサンプルを見ながら詰めていくことになりました。

 

そうこうしているうちに、次の台の印刷が始まったので、
また工場で色の確認です。

機械の駆動音の中、見本も使いながら確認と相談が進みます。

 

ここから色を調整する場合、機械の設定か
インキの色を変えることで対応します。


▲この操作盤では、印刷機からインキが出る量を
部分的に調節できます。

色が命の印刷において、最後の最後までお客様に
追って見ていただける立会いは非常に重要な行程です。
この段階でも、理想の仕上がりに近付くまで手を尽くします。

 

別の印刷機では、並行して表紙の校正が行われていますので、
そちらも確認をいただきます。


▲束見本の表紙と同じ黒い紙です。

校正を見て、表紙に使うインキの色を決めていただきます。


▲画像では分かりにくいですが、左からそれぞれ
グロスニスと黒のインキで熊野古道を表す線が刷られています。

見ていただいた結果、インキは黒に決まりました。

 

見返しの印刷も始まっています。


▲見返しOKの証には硲さんのサインをいただきました。

 

ひと段落したので、またまた2階に上がります。
この繰り返しを、全ての台が刷れるまで繰り返します。

取材はここで終わりますが、この後も引き続き、
立会いは続きました。

 


 

本文、表紙、見返し、製本と、徐々に
パーツが集まってきました。ここからが本番ですので、
引き続き気合いを入れて、完成に向けた調整を進めていきます。

次回は、表紙に施すシルクスクリーン印刷の
確認のため、サンエムカラーを離れて
シルクスクリーン印刷会社からお伝えする予定です。

 

照井壮平さんの写真集「狼煙」特設HPはこちらです。
ぜひチェックしてください。

 

「1冊の写真集が完成するまで」、次の更新をお楽しみに!

 

◯「1冊の写真集が完成するまで ⑤」はコチラから◯