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カテゴリ:1冊の写真集が完成するまで

1冊の写真集が完成するまで③

2017.9.13  1冊の写真集が完成するまで 

サンエムカラーが、作家の方と協力して
新しい写真集を作り上げるまでの様子をリアルタイムで
お届けするシリーズ「1冊の写真集が完成するまで」。
更新も第3回目となりました。

今回は、全ての校正をお客様に
チェックしていただき、直接打ち合わせの中で
具体的な要望や修正点を出していただく様子を
お伝えします。

 


 

今日は京都本社での打ち合わせです。
北浦さん・照井さん・硲さんにお越しいただきました。

事前に、前回発送しました本機校正に対して、いくつか
ご要望をいただいております。

(北浦さんが、校正を見ていただいている様子を
ブログ「みちとおと取材記」に書いてくださっています。
ぜひ、併せてお読みください。)

 


▲要望・指示は直接書き込みます。

今回は、これらのご指示を参考にして
再度印刷した校正を使い、本番の印刷に
向けてのさらなる色修正指示を頂きます。


▲新しい校正を見ていただいています。

前回の記事で印刷の様子をお伝えした校正は、
同じデータを使っていても画像の配置などは
本番とは異なるものでした。
新しい校正では、色の修正を加えるとともに、
配置や画像の大きさも本番で使う形で印刷されています。
紙も同じですので、本番と同じ状態で色を
確認していただけます。

 


▲新しい校正を使って作った写真集の見本です。
実際に本として仕上がった時の写真の見え方、
ページ順による写真の構成が確認できます。
すごい厚みですが、校正は紙の片面にしか
印刷されないため2倍の量の紙が使われています。
完成は約半分の厚みです。

 


色見本を用意して、色修正の準備です。

 


▲赤ペンは指示書き込み用です。
修正指示は赤ペンで書かれるので、指示を入れることを「赤を入れる」と呼ぶこともあります。

 

いよいよ指示を書き込んで頂きます。

 


奥の二つが同じ写真の色見本と校正です。
かなり色の濃さに違いがあるのがわかります。

色修正の指示の仕方や、かける時間は作家さんによって様々です。
色見本として写真を使う場合でも、作品集と実際の写真作品を
ある程度違うものとして見られる方や、写真を絶対の色見本として
使われる方もおられます。

「ここは色見本と同じトーンに、でもここだけ明るくしてほしい」
「校正は明るすぎるけど色見本も理想より少し濃いので、見本よりは少し薄く」
というように、「こういう指示をしたい場合どのように書くのが良いか?」
といったこともお伝えしながら、ここにいない色修正スタッフに
お客様のご要望が100%伝わるような指示を作っていきます。

 
▲「ここはこういう風にしたくて…」口頭で補足指示をいただくこともあります。

 

 

 
▲「カリッと」「トゲトゲしく」と言った指示が見えます。説明的な言葉では表せない修正も大切です。

 


▲デザイナーの硲さんからはテキスト部分の指示をいただきました。

弊社で行う色修正だけではなく、お客様の方で
データを作り直していただく方が良い場合もあります。
このテキスト部分では、黒とグレーの2色で刷っていたところを
わずかな版ズレによる文字の太りを防ぐため1色で刷ることに
変更したので、硲さんにデータを新しくいただくことになりました。

 


▲色修正はただ真剣に進むだけでなく、合間に作品や被写体についてのお話も伺いました。
女人禁制の山の話や、写っている方のエピソード、写真のタイトルについてなどなど
興味深いお話に、良い写真集にしようという気持ちがますます高まります。

 

色は写真集の構成にも影響を与えます。

写真下はお祭りの火の写真ですが、完成時は川の水の写真の
隣のページに来る予定です。
「火と水を戦わせても面白いかもしれませんね」と硲さん。

物語のある写真集なので、単体での色の良し悪しだけでなく、
見本も使いながら全体の流れを見て修正をしていきます。

 


▲どんどん書きます。


▲どんどん書いて…

 


最後にもう一度初めの方の校正を見直し、修正は終わりました。

色修正が終わった後、やはりこのボリュームの写真と取材量、
何年もかけてここに至ったのだろうなと思って今更ながら
撮影期間を伺ったところ、なんと「21年」とのこと。
何年どころか何十年のボリュームでした。身が引き締まります。

今後の予定を相談し、次回はいよいよ本文の印刷立会いに
お越しいただくことになりました。

 

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ここでお伝えしているほかに、並行して表紙の校正や
束見本(製本の見本)の製作も進んでおります。
完成をお伝えする日もだんだん近付いてまいりましたので、
引き続きお読みいただけると幸いです。

 

照井壮平さんの写真集「狼煙」特設HPはこちらです。
ぜひチェックしてください。

 

「1冊の写真集が完成するまで」、次回の更新をお楽しみに!

 

◯「1冊の写真集が完成するまで ④」はコチラから◯

 

 

 

1冊の写真集が完成するまで②

2017.9.1  1冊の写真集が完成するまで 

サンエムカラーが、作家の方と協力して
新しい写真集を作り上げるまでの様子をリアルタイムで
お届けするシリーズ「1冊の写真集が完成するまで」。

第2回目は、本機校正が刷りあがるまでの様子をお伝えします。

 

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前回お伝えした打ち合わせの後、
数種類の見積もりを経て全ての仕様が決定し、無事、正式に受注を
確定させていただきました。

次なる作業は、頂いたデータをもとに刷版を作り(製版)、
その刷版と本番で実際に使う予定の用紙・インキを使った
本番に近い試し刷り(本機校正)です。

前回の打ち合わせの終わりに、照井さんの作品の
フィルムを予め頂いていました。


▲作品のフィルムです。

(前回の詳しい様子は、
1冊の写真集が完成するまで①をご覧ください。
また、道音舎の北浦さんが、同じ日の打ち合わせの
様子をブログ「みちとおと取材記」に書かれていますので、
ぜひ併せてお読みください。)

 

その後受注が確定したので、いよいよ製版に移ります。

原稿データは、デジタルで頂くことも多いのですが、写真集や
作品集を作る場合、そのフィルムであったり、作品そのものをお借りし、
スキャン・撮影をしてデータにすることもあります。

今回頂いたのはフィルムですので、スキャンをして
デジタルデータにする必要があります。


▲弊社スキャニング室での作業です。

今回のようなフィルムや、作品本体、
つまり複製が不可能な原稿をお預かりする場合、
それらは「貴重原稿」や「重要原稿」と呼ばれます。
頂いたデータはもちろん全て大切に扱っておりますが、
貴重原稿、重要原稿を扱う際は特に慎重になります。


▲手袋をし、フィルム表面を丁寧に拭います。

次に、フィルムを分厚いラップのような透明シートに挟みます。

サンエムカラーでは、フィルムのスキャニングに
ドラムスキャナと呼ばれる、非常に解像度の高い
データが得られるスキャナを使います。
ドラムスキャナにフィルムを巻きつけるために、
この透明シートが必要なのです。


▲1本ずつ挟みます。

 

これがドラムスキャナです。


▲フィルムを巻いている様子です。

 

この透明のドラムの中からフィルムに光を当てながら、
ドラムを高速回転させてスキャンします。

 
▲ドラムはフィルムが見えないほどのスピードで回ります。

 

こうして読み取ったデータを修正・編集し、刷版に回します。

 

続いて、本機校正です。

冒頭で書いたように、本番と同じ紙・同じインキ・同じ印刷機で
印刷する試し刷りを本機校正と言います。
この校正をお客様に見ていただき、さらに具体的な
イメージを持っていただいた上で、本番の印刷に進みます。
ではここからは、本社から少し離れたところにある
印刷工場からお伝えしたいと思います。

 

工場には合わせて6つの印刷機がありますが、
今回は↓写真の機械を使います。

取材時にはすでに印刷が始まっていました。


▲オペレーターが操作します。

 

ほどなくして校正が出てきました。早速担当営業による色味の確認が入ります。


▲オペレーターもルーペで確認します。

フィルム原稿とは別に、色見本出力紙を
お預かりしているので、これを色見本として色を慎重に吟味します。


▲手に持っているのが色見本出力紙です。

「ちょっと黄色いですね…」
「青くしないとダメですね」

モノクロの写真を刷っているのに、
「黄色い」「青い」といった感想が飛ぶのは
不思議に思われるかもしれません。

印刷物には、基本的に4色=CMYK(青・赤・黄色・黒)の
インキが使われています。

今回の写真集は、一見黒色1色で
刷れるように思えますが、実は、より深い
色味を実現するために、黒+グレーの
2色で刷られているのです。

つまり、ここで言う「黄色い」とは、
このグレーがほんの少し理想の色より
黄色っぽいインキに仕上がっている
状態ということです。


▲画像では少しわかりにくいですが、校正(上)と原稿(下)では
煙のような部分の色が違うのが見て取れます。校正は、原稿に比べると黄みがかっています。

また、インキだけでなく、紙の色が違うことも
刷り色が違って見える原因の一つです。


▲小さい紙が色見本、大きい紙が本番で使う紙です。本番の紙の方が
黄色っぽいのがわかります。

吟味を重ねて選んだ紙なので、
この紙を使った上で最大限、色見本に近い色合いに
なるインキを作り出すことが大切です。

 

理想の色にさらに近づけるために
あとでインキを一から練り直すのですが、
一旦今刷っている色にインキを足し、
再び刷って様子を見ます。

印刷機の上に上がるとこんな景色です。
見えている箱のような部分にそれぞれ
インキローラーが入っています。


▲これがグレーを刷っているローラーです。

ここに、今からオペレーターが青いインキを
手で足していきます。どれくらい足すかは
職人の経験から量ります。

  


▲ヘラで豪快にインキを盛っていきます。

 

特色は、言わばオーダーメイドのインキなので、
ボトルならぬインキキープという形で
そのお客様専用の缶に入れて保管されます。


▲これが今回の特色が入っていた缶です。缶にはお客様のお名前が書かれます。

 

インキを足し終わったので、再び校正を刷ります。

 

その前に、せっかくですので、ここで印刷機の他の部分もご紹介します。


▲機械の一番端にある、刷るための紙が置かれる所です。
上の写真では、最初の何枚かの試し刷りに使う裏紙が置かれています。

 
▲ここから紙が機械の中に流れていきます。

 


▲こちらは機械の反対側の端にある、刷られた紙が出てくる部分です。
白い部分が、出てきた紙の側面です。

 

そうこうしているうちに、校正の2回目が刷り上がったようです。

やはり紙色の影響はありますが、1回目よりやや黄色味が
抑えられました。


▲色の薄い写真で見ると色の違いがわかりやすくなります。
細い枝の写真、右側が2回目の校正です。

 

さらにインキ色を調整し、機械の設定上でもインキの
出方を調節して、3回目の校正です。


▲ここまでの3回でそれぞれ使ったインキです。
一番右が3回目に使った色ですが、青を加えることで
より締まった色になっていることがわかります。

 

上の段右が3回目の校正です。1回目に比べると
かなり色見本に近づきました。

 

校正だけで見比べても違いがわかります。

最終的に、この3回目の校正をお客様に
見ていただくことになりました。

北浦さん、照井さん、硲さんそれぞれに
校正を発送して、今日の本機校正は終わりです。

 

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「1冊の写真集が完成するまで」第2弾はここまでです。

第3弾では、今回お送りした校正に
対してお客様からいただいた要望を参考に、
実際に写真集に使う全てのデータを使って
もう一度本機校正を行う様子をお伝えします。

 

照井壮平さんの写真集「狼煙」特設HPはこちらです。
ぜひチェックしてください。

 

次回の更新をお楽しみに!

 

◯「1冊の写真集が完成するまで ③」はコチラから◯

 

1冊の写真集が完成するまで①

2017.8.22  1冊の写真集が完成するまで 

サンエムカラーは、これまでに様々な方々の
作品集・写真集の印刷を手がけてまいりました。

初めて作品集を作られる方にも、経験豊かな担当者が
しっかりとお話を伺い、充実した作品集が完成するまでを
徹底的にサポートさせていただいております。

 

しかし、この記事を読まれている方の中には、
「写真集を作りたい!でもハッキリしたイメージが持てていないのに相談しても大丈夫なのか」
「お金がどれくらいかかるのか全く分からない…」
など、不安に思われている方も多いのではないでしょうか。

 

そこで、当ブログでは数回に渡り、実際にサンエムカラーが
作家の方と共に1冊の作品集を作り上げるまでの様子を、
リアルタイムでお届けしたいと思います。
どんなペースでどんなことが決まっていくのか、
打ち合わせはどんな雰囲気なのかなどを、
写真を交えて具体的にお伝えしていきます。

 

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この日、打ち合わせにお越しいただいたのは、道音舎の北浦雅子さん、
ハザマデザイン事務所の硲勇さん、そしてフリーランスの写真家・照井壮平さん。
弊社担当は営業部の前川です。

照井さんは熊野・高野山をフィールドとして活躍し、
国内外で作品を発表されている新進気鋭の作家さんです。
今回はその熊野・高野山をテーマとしたご自身初となる写真集、
それもこだわりの少部数限定出版のものを作りたいということで
お話をいただきました。

▲左から、硲勇さんと照井壮平さん。

 

実は取材時はすでに2回目の打ち合わせ。
最初に来社された際の打ち合わせで、「大まかな予算」「こだわりたいポイント」などを
伺いながら調整をし、コデックス装という装丁で進めることが決まっていました。

初めての場合、装丁などでこだわりたい部分と
予算が折り合わない、というように、お客様のイメージと
実際の事情に違いが生じることも多々あります。
そんな時も、同じ予算内でより良いものが作れる代替案を
ご提案しながら、根気よく最良の方法を探っていきます。

今回の打ち合わせでは、本文や表紙に使う紙の相談や、既刊の写真集を参考にしながら、
より具体的なイメージを固めていきます。

 


▲写真集のミニチュアイメージを見ながらの相談。

 

黒を基調とした作品を撮られているので、以前弊社で担当した
黒いコデックス装の本を参考に話が進みます。

 


「ここの側面を黒くできるんですか?」
「シルクスクリーンで小口印刷という手があるので、それを使えば可能ですよ」
「本文に対して表紙を大きくすれば額縁みたいでかっこいいですよね」

 

見本になるのは本ばかりではありません。
少しでもイメージに近いものであればどんどん参考にしていきます。

 


▲ルーペでモノクロポスターの網点を見ていただき、
黒い部分とグレーの部分の表現の違いを実感していただきます。

 

内容に関しての相談がひと段落すると、今度は価格やバーコードといった、
さらに細かい部分の相談です。
書店では流通しないアートブックの場合、バーコードを本に直接印刷せずに
シールとして袋に貼る場合が多いのですが、そういった、一般的に書店に
流通する本と少数出版の写真集との違いなどもご説明しながら進めていきます。

 


▲作品の実物もお持ちいただきました。

 

      

 

 

打ち合わせは終始和やかな雰囲気。最後に、どの形で次の見積もりを
お出しするか、スキャンはどのようにするかを話し合い、今回は終了しました。

 

次回からも、実際の制作進行に合わせて随時状況をお伝えして参りたいと思います。

なお、今回の写真集制作の様子を作家さんの視点から捉えるブログを北浦さんが書かれています。
制作進行の様子がよりリアルに感じ取れますので、当ブログと並行してお読みいただけると幸いです。

北浦さんのブログです。↓
http://www.michi-oto.com/kyoto/

 

また、今回取材させていただく照井さんの写真集「狼煙」の特設HPがあります。
最新情報のほか、デザインや照井さんによる文章に写真集への期待が高まります。
ぜひ、チェックしてみてください。

 

「1冊の写真集が完成するまで」次回の更新をお楽しみに!

 

 

◯「1冊の写真集が完成するまで ②」はコチラから◯