私たちの知らない場所で季節や時間によって
刻々と表情を変えながら生きている“森”。
今年、第2回入江泰記念写真賞を受賞された田淵三菜さんの写真集
『into the forest』にはそのように繊細に移り変わる
森の様子が丁寧にカメラに収められています。
読むと深呼吸をしたような気持ちになれるのは、
私たちの心のどこかに潜む、森への憧れかもしれません。
この写真集が出来上がるきっかけは、
育った街での暮らしの先にどうしても足が向かわなくなった
田淵さんが、森での一人暮らしを始めたことでした。
キンッと冷えた雪解け水をしたたらせながら芽吹く新芽や、
射し込む光を受けて炎のように煌めく広葉樹、
秋の風が遊ぶように吹き通る木立……。
本を開くとそこには“森への門”が待ち受け、
まるで誰も知らない場所を読者1人だけが
垣間見たような感覚に包まれます。
毎日あまり変わらないことの繰り返しで出来た都会の生活に対して、
森での変化に富んだ生活は一見過酷なように思えます。
しかし、もしかしたら人間は本来このような折々の変化を
身体で感じながら生きていくことの方が自然なのかもしれません。
写真の存在感のみならず、街での生活を捨て一年間を森の中で
カメラと共に過ごされた田淵さんの生き方が、そのように思わせてくれる一冊です。
展覧会も入江泰記念奈良市写真美術館にて開催中ですので、
田淵さんの体感した12ヶ月がセクションに分かれて収録されている
この一冊と合わせて、是非ご鑑賞ください。
展覧会の詳細はこちらをご覧ください!
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『into the forest』
著者:田淵三菜
発行:入江泰記念写真賞実行委員会
監修:百々俊二
木村真士(入江泰記念奈良市写真美術館)
造本:町口覚
デザイン:浅田農(マッチアンドカンパニー)
印刷:株式会社サンエムカラー
仕様:B5変型・ソフトカバー・276頁
定価:3,000円(税別)
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